FASHION
2021.06.15.TUE
INSIDE O0u
#02
サステナビリティをみんなのものに
「新しいふつう、新しいかっこよさ」。O0uのコピーは、肩肘を張らずにサステナブルを意識してもらおうという、想いが込められています。このコピーに始まり、タイポグラフィーやビジュアルコミュニケーションなど、クリエイティブ全般のディレクションを手掛けたのが、デザインファームKESIKIの石川俊祐です。ファウンダーとして活躍する彼が、O0uのクリエイティブに込めた想いについて語りました。
人格形成からスタートしたブランド作り
——まず始めに、「O0u」と石川さんの関わりについて教えてください。
クリエイティブディレクターとして、ブランドの軸や方向性を作るところから関わっています。
我々はよくブランドを人にたとえるんですが、この新しいブランドは、サステナブルなライフスタイルを送りたいと思っている人たちにどのように語りかけ、コミュニケーションをはかり、受け止められて、愛されるのか。まずは、ブランドの人格形成からスタートしました。その上で、服のデザインやユーザー体験、ECサイト、オウンドメディアのあり方など「こういう人格なら、こういう発信の仕方をするはずだ」というふうに、ストーリーを肉付けしていったんです。
——ブランドの人格「KIND, yet CONFIDENT」「HONEST, yet PLAYFUL」は、どのように生まれたのでしょうか?
サステナビリティに対する一般的なイメージはどのようなものか? それを知るために、さまざまな職種や年代の人にインタビューを行いました。その結果わかったのは、日本では“サステナブル”と“ナチュラル”を同義に捉えている人が非常に多いということ。実際、人や環境に配慮しているかはさておき、自然でやさしいイメージのあるブランドは「サステナブル」だと認識されているんです。
これを目の当たりにして、エコやサステナブルを前面に掲げる打ち出し方では、多くの人に手に取ってもらうことは難しいだろうと考えました。そこで生まれたのが「KIND, yet CONFIDENT」「HONEST, yet PLAYFUL」という、寛容さや自然体を感じさせる人格だったんです。
——なるほど。人や環境に配慮することと、自然でやさしいイメージをつくることを、両立させる必要があったんですね。
その通りです。次に議題に挙がったのが、ブランドが伝えていく価値観を明確にしようということ。デザイナーやマーケターの方を交えて議論し、いくつかキーワードが出ました。そのひとつが「インクルーシブ(=包摂的な)」という言葉。
ここ数年、社会のあらゆる場面で多様性が重視されていますが、多様性は「自分は自分、他者は他者」というように、境界をきっぱり分ける概念なんですね。それに対して、インクルーシブはもっと内包的で、境界がぼやけて重なり合う部分があってもいいという考え方です。
家の内と外、仕事と遊びなど、色々なことの境界が薄れてきているいま、インクルーシブは人々の共感を得やすく、ブランドの価値観として適したキーワードではないか。そのように、チーム内で意見が一致しました。
循環や多様性を記号的に表現してみたかった
——次は「O0u」のビジュアル・アイデンティティについて。まずは、ロゴのデザインに込めた思いをお聞かせください。
ブランドのビジュアル・アイデンティティを論理的に考えようとすると、新しいアイデアやおもしろいアイデアは出てきにくいんです。何かの頭文字を並べただけだったり、パッと見てイメージがつかめない難解な文字列になってしまったり……。今回は、文字や記号を使って、もっと抽象的にブランドの人格や価値観を表したいと考えました。
そこで、以前から交流のあったビジュアルデザイナーの丸山新さんに相談したところ「26文字のアルファベットの中で、可変性のある形はどれか?」という話になったんです。AからZまでのアルファベットの中で、自由に形を変えられるのはO(オー)だけ。インクルーシブや循環する、境界線、つながるといったキーワードを、Oという文字は非常にわかりやすく表現してくれます。それならば、Oを軸にビジュアル・アイデンティティを作ろうということになりました。
——O(オー)に続く0(ゼロ)も可変性のある記号の意味合いがあるということですかね?
はい、丸とか曲線の形は、長細くなったり太くなったりしますよね。Oや0には、小さい人が着ても、大きい人が着ても、細い人が着ても似合う、と言うように色々な人たちの体に合わせるみたいな意味を込めています。ネーミングを考える際に記号から入る、という新しいプロセスを試みたんです。
——「O0u」の立ち上げ当初からこだわっていたポイント「サステナブル」を、ユーザーにどのように伝えようと考えましたか?
サステナブルを伝えるための仕掛けとして、ECサイトとウェブメディア「Me&THE EARTH」を用意しました。ECサイトは、サステナブルに興味・関心の高い人が直接アクセスできる、いわばブランドのA面。それに対して、ウェブマガジンはブランドのB面です。
さまざまなライフスタイルや価値観のあり方を伝え、それを読んで共感した人が、なだらかに一歩を踏み出せるきっかけになればいい。サステナブルな生活を実践する方法として、O0uの服があるというところまでつながるように、心をグッとつかむようなコンテンツを展開していきたいと考えています。
ひとりの気づきが社会解決につながるかもしれない
——デザインと聞くと、どうしても「見栄えを良くする」「形を整える」といったことをイメージする人が多いと思います。デザインとはどのような役割を果たすものか、考えをお聞かせください。
デザインは、形のデザインと、人の行動や気持ちのデザインという2種類に大きく分けられます。イギリスやデンマークでは、交通渋滞などパブリックな課題を解決するために、デザイナーが起用されるんです。それは、人の行動や気持ちをデザインすることで、暮らしを豊かにすることにつながったり、社会がよりおもしろくなったりすると考えられているから。
日本では、デザインが用いられる範囲がまだ狭いですが、人の暮らしや新しい価値創出といったところにデザインが使われていくと、おもしろいコラボレーションが起きやすいのではないかと思いますね。とはいえ、僕も以前は、形をデザインすることがデザイナーの仕事だと考えていました。ミラノサローネなどで脚光を浴びることが、デザイナーの頂だと思っていたんです。
——いまのような考え方に変わったのはなぜですか?
実際に開発された注射器は、おもちゃのような見た目で、注射針の刺さる深さを選べる機能がついていました。美しい形や革新的な技術を追い求めるのではなく、課題に向き合い観察した結果、このようなデザインになったんです。
——デザイナーでなくても「向き合い、観察する」ことで、何か気づきを得られるでしょうか?
物事に向き合うときに、2つのことを頭に入れておくといいと思います。1つ目は、世の中のすべてのものは再定義できるということ。“旅行者の目”という言い方をしますが、初めてその場所を訪れた旅行者のつもりで、「これって何でこうなっているんだろう」と疑問を持って観察してみることが、気づきにつながると思います。
もう1つは、“好き嫌い”の感度を高くしておくこと。カフェに入ったとき、電車に乗るとき……なんとなくストレスや違和感を覚えても、「まぁ、そういうものでしょ」とスルーしてしまうことが多いですよね。そういう心の動きに敏感になって「自分はなぜここに違和感を覚えるんだろう」と、深掘りするクセをつけるといい。
いま皆さんがぼんやり感じているストレスや違和感は、もしかしたら、日本中の誰もが抱えているものかもしれません。一個人の小さな気づきが、大きな社会課題の解決につながることもあります。
サステナビリティの実践は、心地良くいられる物を長く使うことから
——石川さんご自身が実践している、サステナブルなアクションがありましたら教えてください。
O0uに関わったことで、これまで以上に、物や服の選び方を考えるようになりました。O0uの服は、さまざまな体型や体の動きに寄り添うことを意識してデザインされています。シンプルなデザインなので、パッと見ただけでは特徴がわかりにくいですが、着てみると体がすごく楽でずっと着ていられる。
そういうふうに、心地良くいられる物を選んで長く使うことも、サステナビリティの実践だと思うようになりましたね。また、スタートアップを応援したり、サステナブルな取り組みを行っている団体に寄付したりすることも増えました。サステナビリティを堅苦しく考えず、楽しいと思える範囲で実践してみようと考えるようになったのは、大きな変化だと思っています。
——今後、O0uはどんなブランドに育つでしょうか? 展望をお聞かせください。
O0uはライフスタイルブランドなので、アパレル以外の商品やサービスを展開することも視野に入れています。そのときに「O0uらしいやり方だね」と共感してもらえるよう、世界観を確立させたいですね。例えば、食のサービスを展開するなら「O0uが考える食は、地産地消みたいなあり方かな? それとも、屋上で畑をシェアする?」といったように、サステナブルという軸をブラさず、新しいやり方を提案していけるといい。
スケールの大きい話のようですが、グローバルなライフスタイルブランドになれるよう、クリエイティブディレクターとしてサポートしていきたいと思っています。
Profile:
石川俊祐
1977年生まれ。英セントラルセントマーティンスを卒業。日本の家電メーカーデザイナー、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。デザインディレクターとしてイノベーション事業を多数手掛ける。BCG Digital Venturesにてヘッドオブデザインを務めたのち、2019年、KESIKI設立。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎)など。