FASHION
2021.07.02 FRI
INSIDE O0u
#03
3DCGが変えるファッションの未来
世界がサステナブルな未来へと舵を切り、デジタルイノベーションを加速させる中で誕生したO0u。ブランドの基本理念である「ながく使う」と「無駄を省く」を実現するために様々な施策を行う中で、ファッション業界としては最先端技術である「3DCG技術」を導入し、生産過程におけるロスを減らすべく取り組みを進めています。
今回は、VRアーティスト・せきぐちあいみさんをゲストに迎え、O0uで使われている3DCG技術を開発する株式会社FMB原宿オフィスに訪問。前半では同社を創業した市川雄司さん、そして後半ではCGクリエイターとして第一線で活躍してきた小畑正好さんに、テクノロジーとファッションの新しい関係についてお話を聞きました。
ファッション業界が注目する3Dモデリング
せきぐち:本日はよろしくお願いします! 私はVR(仮想現実)を使って、バーチャル空間に立体の絵を描くVRアート制作をしています。O0uでは、最先端の3DCG技術を活用しているそうですね。最近では、VRでモデルルームを体験できたり、他にもさまざまな分野でデジタル技術が取り入れられていますよね。そうした動きがファッション業界にも来ているということでしょうか?
市川:おっしゃる通りです。ファッション業界は資源、労働、廃棄などにいくつかの大きな課題を抱えているのはご存知でしょうか。僕たちFMBはその中の一つである、生産工程の中で生まれる資源ロスをいかに減らしていくかという部分に着目し、デジタルの力で社会課題に貢献したいと思っています。
せきぐち:環境への配慮を考えてオーガニック素材や、リサイクル素材を使用するファッションブランドの話題を最近よく耳にしますよね。でもこういう風に製造工程の考え方を知ることはあまりないので、すごく新鮮です。
市川:ファッションだけでなく、ものづくり全般に言えることですが、通常、ひとつのデザインが商品になるまでには、サンプルを何度か作り直す必要があります。3DCGを活用しパソコン上でサンプルを作成することができれば、そういった商品になる前のロスを防ぐことができ、本当に必要なものを必要な分だけ作るすることが可能になります。
3Dモデリングは建築や自動車業界では1990年代から、家具や家電にも2000年代から活用されています。ファッション業界では生地の質感を表現する難しさなどからソフト開発に時間がかかり、2016年にようやく導入されました。そして2021年の今、世界的なサステナブル意識の高まりとともに、少しずつ導入の動きが広がってきています。
他の業界がそうだったように、3DCGを使って服を作るのが当たり前の時代が遠からず、来ると思います。O0uが行っている3DCG活用の取り組みは、ファッション業界のDX(デジタルトランスメーション)の先駆けと言えると思いますね。
3DCG技術で服を作るってどういうこと?
せきぐち:これが今私が実際に着ているO0uのアイテムのCGデータですか? 素材の動きや質感が本当にリアルでびっくり。アバターの着画も実物通りの発色で、着心地も映像から感じるイメージ通りに柔らかいですね。それにしても、どうしてここまでリアルに服のニュアンスまで作りこめるのでしょうか?
市川:それがファッション3Dモデリングの大きな特徴です。ファッション3Dモデリングが工業製品などに使われる一般的な3Dモデリングと異なるのは、デザインやサイズだけでなく、着用感や生地の質感の表現も可能なことにあります。
特にO0uでは、よりリアルな表現を目指し、型紙データと生地や糸などの素材データをもとに、10個以上のソフトを駆使して精緻な3DCGを組み上げています。組み上げた3DCGはアニメーションで動かし、シルエット変化を確認することもできるんですよ。
せきぐち:生地の落ち感が本当にリアルですし、CGが持つ不自然さが殆ど感じられないのがすごいですよね。
市川:FMBでは、生地の物性データから計算し、リアルな素材の動きを追求しています。着圧が視覚的にわかるシミュレーション機能もあり、たとえば「ここがちょっときつそう」となれば画面上で修正。修正はパターンデータにも反映することができるようになっています。「着心地」という感覚的な部分まで、再現可能なんです。
せきぐち:商品化までをデータ上でシュミレーションすることで、その工程で発生するロスを極力減らしていけそうですね。デジタルサンプルだからこそ、あらゆる体型や世代・ジェンダーに最適なデザインを作り出すことも可能になりますよね。
市川:これからもファッション3DCGでの表現はどんどん発展していきます。今後、もっとCGの表現精度が上がっていけば、商品生産する前に3DCG画像をECサイトに掲載して、先行予約販売するという形もできるはずと考えています。
お客様の反応を見てから生産数を決められれば、必要な分だけ作ることが可能になる。もっと先の未来には、お客様が自身のアバターをもち、オーダーメイドのように自分のサイズの服をオンラインで簡単に注文できるようになる。そうすれば、お客様の満足度も上がり、資源ロスや環境負荷の低減にもなる。人にも地球にも優しいものづくりが可能になるはずです。
せきぐち:アバターのオーダーメイドシステム! それってまさにファッション革命ですよね。新しいテクノロジーを取り入れることで、さらなる発展を遂げ、ファッションの楽しみ方がもっと増えていく。これからのファッション業界がすごく楽しみになりますね。
デジタルアートは資源を使わずに無限に価値を生み出せる?
せきぐち:今日はファッション3DCGと出会って、VRとの出会った頃の感動を思い出しました。私がVRと出会ったのは、2016年頃。取材でVRアートを初めて体験して「何これすごい!」と感動したのがきっかけ。仮想現実の空間に絵を描いて、その世界の中に人が入ってその世界を体感できるなんて、なんてすごい技術なんだろう!と。まるで魔法を手に入れた気分だったのが懐かしいです。
小畑:そうですね。CGに関わって20年経ちますが、新感覚に出会う感動はこの業界のクリエイターなら誰しもあるのではないでしょうか。CGやVRといったデジタルクリエイティブの面白いところは、パソコンの前に座りさえすれば、一人で何でもつくれることですよね。僕はCGをやる前はテレビ局で舞台美術をしていたんですが、モノをつくるって、数人がかりで大きな発砲スチロールを削ったり、粘土を練って造形したりと結構大変。
それがCGを使えば、大変な工程はすべてテクノロジーが肩代わりしてくれる。物理的な制限のためにつくりたいものがつくれないということがなく、イメージした通りのものを誰でも楽につくれるようになる。本当のクリエイティビティを具現化できるツールであり、まさに技術革新だと感じましたね。
せきぐち:私もVRがなければ、6.5畳の作業スペースに広大な遊園地を出現させて、人に体験してもらおうなんて考えもしなかったはず(笑)。VRというテクノロジーのおかげで、私はこれまでにない新しいものを考え、つくり出すことができるし、それは見る人たちの想像力も刺激して、誰かの人生や世界をも変えるきっかけになるかもしれない。
今日お話を伺ったファッション3DCGテクノロジーもそういう可能性を秘めていますよね。服を作ることはできないけれど作りたいものがある、というような人はきっといると思います。今までとは全く違った個性やスキルを持つ人の中から、次世代のファッションデザイナーが生まれるかもしれない。そう考えると、デジタルテクノロジーに無限の可能性を感じますよね。
小畑:クリエイターとしてのパフォーマンスを上げるために、日々の暮らしや着るものへのこだわりはありますか?
せきぐち:デジタルは大好きだけど、長時間触れていると疲れやすいので、できるだけ体に優しいものを選びたいと思っています。今日試着させていただいたO0uの服は着心地が良くて、ストレスフリー。デジタル時代にこそ着たい服だと感じました。その一方、3DCG技術を取り入れたり、生地も最先端技術でつくられた再生素材を使っていたりとハイテク感もあって、エンジニアとかテクノロジー好きな方にも響きそうですよね!
小畑:そうなんですよ。僕も気づいたら25着くらい買ってました(笑)。O0uの服はシルエットもきれいだし、どのデザインも細部まで計算されている。特に僕の場合はO0uの3DCGデータの技術的なこだわりを知っているからこそ、愛着がとても強くて、つい実物が欲しくなってしまうんですよ。
せきぐち: 自分たちの生み出したものがリアルの世界を変えていく感覚は本当に感動的ですよね。この取材を通して実感したのですが、VRアートは、それ自体がサステナブルなアクションだと言えるなと思いました。資源を余分に使うことも環境を壊すこともなく、新しい価値を無限に生み出せるわけですから!
私は将来、VRデバイスを一人一台持つ時代がきっと来ると思っていて。今後はアートに限らず、VRゴーグルをかけるだけで、旅行の疑似体験ができたり、遠くの人と会ってコミュニケーションしたり、フィットネスをしたりと、あらゆることが環境負荷をかけずに実現できるようになるはずです。
そうなれば、暮らしの豊かさや楽しさと、地球環境への配慮を同時に実現することだってできますよね。今、私たちの社会には色々な課題があるけれど、乗り越えるべき壁があるからこそテクノロジーは進化してきたし、きっとこれからも大丈夫だと信じています。
それに、こうやって新しい技術や、取り組みに挑戦している人たちに出会うと、「よし、私も頑張ろう!」ってワクワクする気持ちが、私のクリエイティブの源泉だなって実感しますね。
Profile:
せきぐちあいみ
神奈川県相模原市生まれ。クリーク・アンド・リバー社所属。滋慶学園COMグループ、VR教育顧問。VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内にとどまらず、海外でもVRパフォーマンスを披露して活動している。2017年、VRアート普及のため、世界初のVR個展を実施すべくクラウドファンディングに挑戦し、目標額の3倍強(347%)を達成。2021年3月25日には、NFTオークションにて約1300万円の値を付け、落札された。
Twitter : @sekiguchiaimi
instagram:@sekiguchiaimi
HP : https://www.creativevillage.ne.jp/lp/aimi_sekiguchi/
市川雄司
バンタンデザイン研究所ファッション学部卒業。その後は三陽商会・クルーズなど大手アパレルメーカーのバイヤー・セールスマネージャーを経験したのちにバンタン研究所にてファッション教育ビジネス全般に携わる。現在はファッション業界にDX革命を起こすべく株式会社FMB(ファッションメタデータバンク)を創業。ファッション3DCGの人材育成にも注力している。
HP : https://fmb.tokyo/
小畑正好
武蔵野美術大学院卒業後、NHKエンタープライズUSA HDCG/NY入社。㈱島精機制作スーパーバイザー着任。映画、TV、ゲーム等の映像コンテンツのVFXやCG制作を行いつつ早稲田大学理工学術院教授他、教員としても活動。現在はFMBに参画し、アパレルファッション業界のDXに取り組んでいる。