MATERIAL A to Z
2021.06.01 TUE
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#02
最古で最強の繊維リネンを学ぶ
シャツやハーフパンツなど夏物のファッションアイテムによく使われている「リネン」。クローゼットに何着かリネン素材の衣類が入っているという人も多いのではないでしょうか。実はリネンは、「最古で最強のサステナブル素材」と言われているのだとか。その奥深い世界を、この道40年、繊維素材のカリスマでありO0uマテリアルスーパーバイザーであるカベ先生に教えてもらいました。
「リネン=麻」じゃない? 意外と知らない繊維の歴史。
――そろそろ麻やリネンのアイテムが活躍する季節ですね。リネンとはどんな素材なのでしょうか?
まず、植物の茎や葉を原料に作られる素材の総称を「麻」と呼びます。
麻は草や木から繊維をたたき出して糸にして織る、いわば「繊維の原点」です。リネンはそのなかの種類の一つで、フラックスという植物の茎から作られたもの。「亜麻色の髪の乙女」の亜麻がフラックスです。「リネン=麻」と勘違いしている人が多いですが、ヤシの葉(ラフィア)や、芭蕉布(バナナ科の植物)、ラミー(芋科の植物)、大麻などから作られた素材も全部「麻」なんですよ。ラフィアはカゴバッグなどによく使われていますよね。あれも「麻」素材の一つなんです。
今回のテーマであるリネンの原料となるフラックスは、日本ではあまり栽培されていません。フランスのノルマンディ地方でよくとれる植物なので、製造や加工もフランスやベルギーが主流です。最近「フレンチリネン」という言葉をよく聞くようになったでしょう?フランスから来た麻だから、そう呼ぶようになったんです。実は、フレンチリネンという言葉を考案したのは僕だったりするんです(笑)。
日本では近年人気となったフレンチリネンですが、フランスでは大昔からなじみ深い素材です。フランス語ではリネンのことを「Lin(ラン)」と言います。大昔には下着の素材としても使われていて、「ランジェリー」の語源はここから来ていると言われています。ホテルなどにある「リネン室」も、シーツなどがリネンで作られていたからそう呼ばれるようになったとか。多くの語源になっていることからも、遥か昔から生活に根付いた素材だったのがわかりますよね。
ミイラにも使われた麻は、人類最古のサステナブル素材
――麻とリネンの違いが理解できました。とりわけリネンが夏によく使われ、「最古かつ最強のサステナブル素材」と呼ばれているのはなぜでしょう?
リネンを含む麻と言う繊維は、水に強い性質があります。抗菌性・吸水性も高くて汗をよく吸いますし、湿気にも強くて高温多湿な環境にぴったり。肌触りも優しくサラッとしているので、夏の衣類に向いているんです。まさに天然の接触冷感素材ですね。麻の服は水分を含むと繊維の強さが3倍になると言われていて、水洗いするたびに強度が増します。気兼ねなく洗える点も、夏向きと言えますね。
エジプトのミイラは麻で包まれているって知っていますか?1万年以上前の布が今でも残っているのは、麻の調湿機能と耐久性がとても高い証拠ですね。
そんな繊維の原点である麻のなかでも、リネンは特に環境にやさしい素材だと言われています。原材料となるフラックスは寒い地域でもよく育ち、農薬をほとんど使わずに作ることができます。さらに乾燥地帯でもよく育つので、最小限の水で栽培できるんです。すごい生命力を持った植物でしょう?
フラックスをリネン繊維にする方法はとても独特。茎を刈って、土の上に寝かせ、雨露によって発酵させます。そうして茎の中の繊維以外の部分を土壌分解させて、繊維を取り出すんです。こういう作り方をするから、中国ではリネンのことを自然色の「雨露麻」と呼ぶんでいるんだそうですよ。
このようにリネンは原料・製法のどちらにおいても環境に大きな負荷をかけずに作ることができる素材です。さらに作った服は夏向きでありながら、一方で保温性もあり丈夫なので、オールシーズンで長く着ることもできる。植物由来の繊維だからもちろん土にも還ります。こうやって一つずつ説明していくと、人類最古でありながら最強のサステナブル素材と言われる所以が伝わったんじゃないでしょうか。
リネンの質感や手触りには、ブランドの思想が宿っている
――同じリネンでも肌触りが違うものがありますが、選び方のコツはありますか?
着心地や風合いは、フラックスの育成状況にもよるので、その年ごとに少しずつ異なるのがリネンの面白い部分です。あとは「番手」と言われる、織るときの糸の太さによっても変わりますね。独特のラスティックな質感をファッションとしてどこまで表現するかは、ブランドごとに個性が出る部分ですね。
麻は丈夫で着やすい素材ですが、一方で退色しやすいと言う特徴も持っています。ビタミンカラーなどのはっきりした発色のものは、少しずつ色が薄くなるので、ウォッシュ加工のような、こなれた印象が楽しめます。色落ちや質感が変化しないのはやっぱりナチュラルなものか、ブリーチした白いもの。黒系も退色しにくいですよ。どんな風に着こなしたいかイメージしながら選ぶといいですね。
O0uの麻ジャケットについてお話しすると、ものすごく糸にこだわっています。使ったのはフランス製のsafilin(サフィラン)社という世界最古の麻の紡績メーカーのもの。原料が植物なので、年によってどうして質に差が出てしまうんですが、このメーカーはその年とれたものだけでなく、以前にとれたものも混ぜることで、品質をキープしているんです。これをやっているところはなかなかない。やっぱりリネンではフランスは本当にすごいですよ。
もう少しO0uのお話をすると、紹介した麻ジャケットの織りと仕上げは滋賀県でやっています。プロからみても本当にきれいな仕上がりになっていて、自慢したくなるくらいの出来栄え。展示会では繊維業界の人に「このクオリティでこんなに安くていいんですか?」と言われるくらいなんですよ!こんなに良い糸を使って、こんなに良い織りをして…3倍くらいの値段にしてもいいんじゃない?と僕は密かに思っていますね(笑)。生地を開発した僕が言うのもなんですけど、ものすごくおすすめです。次も出せるか自信がないくらい、自信作です。
ナチュラルな「シワ」も魅力。自然の風合いを楽しもう
――リネンの魅力がすごく伝わってきました。リネンって、どんなふうに着たらおしゃれでしょうか?
麻の素材はシワになりやすく、もれなくリネンもそうなんです。そこが面倒に感じる人も多いかもしれませんが、その自然なシワが最大の魅力でもあります。自然素材らしい質感で、どこかリラックスした雰囲気を出してくれるので、大人のカジュアルに取り入れると素敵です。O0uのジャケットも、しわになっても嫌じゃない風合いに最初からつくっているので、カーディガンのように日常でさらりと羽織ると、かっこいいと思いますね。
それに、使うほど、洗うほどにやわらかくなりますから、長い時間をかけて「洋服を育てる」感覚で着られるのがリネンのいいところ。洗濯については少し注意してくださいね!素材としては水に強いですが、アイテムによって、おすすめの洗濯の仕方は違ってきます。シャツなんかは気にせず洗濯機で洗ってしまってOKだけれど、ジャケットは型崩れを防ぎたいから、やさしく手洗いしてください。
涼しくて、強くて、すぐ乾く。こんな夏向きの素材はありませんから、ぜひ1着お気に入りを見つけてみてください。いいものは10年着られます。10年後の自分がどういう風に着こなすのか、想像しながら選べばきっと楽しいんじゃないでしょうか。
profile
賀部 哲(カベ サトシ)
O0uマテリアルスーパーバイザー。1955年、東京生まれ。国内のあらゆるアパレルブランド、メーカーなどから依頼を受け、ファブリック素材の開発や、テキスタイルデザイン、素材のクオリティ管理や仕入れ管理などの業務を行っている。デザイナーから絶大な信頼を受ける素材の達人。
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Illustration : くらちなつき
Text : 佐藤葉月