MATERIAL
2022.11.04 FRI
MATERIAL A to Z
#06
アルパカのサステナブルな温もり
知っているようで詳しくは知らない、ファッションの素材について学ぶ連載「MATERIAL A to Z」。今回取り上げるのは、寒い冬を温かく過ごすのにぴったりの「アルパカ」です。ニットやコートなど、保温性重視のアイテムによく使われている素材です。
ウール(羊の毛)ほどポピュラーではありませんが、人類の長い歴史の中で使われ続けてきたのには、理由があるはず。40年にわたり繊維業界で活躍し、数々の大手ブランドを裏側から支えてきたO0uマテリアルスーパーバイザー・カベ先生に、アルパカの特徴やその魅力をお聞きしました。
紀元前から重宝されてきた、価値ある素材
―かわいらしいビジュアルで人気が高いアルパカですが、その毛はどこからやってきてニットやコートになるのでしょうか?
アルパカはラクダ科に属し、主に毛を刈って加工するために飼育されている動物です。主な生息地はペルーとボリビア。およそ70%がペルー産です。アルパカが誕生したのは紀元前3000年にまでさかのぼりますが、長く現地の人たちに織物の素材として使われてきました。食べ物と物々交換するのにも、アルパカの毛の織物が重宝したそうですよ。
この毛でニットをつくろうと考えたのは、ヨーロッパから来た人たちだと言われていて、現在はペルーにある2つの大きなメーカーが、世界中の紡績工場にアルパカの毛を供給しています。
―同じように動物の毛でつくる洋服は、ウール(羊の毛)が有名ですが、アルパカはウールよりも希少なのですか?
そうですね。ウールは年間約114万トンが生産されていますが、アルパカは年間約4000トンで、300分の1ほど。高級な素材として知られているカシミヤよりも年間の生産量が少ないので、希少価値が高いと言えますね。
アルパカには大きく4段階、細かく分解すると23段階もの毛色があるのをご存知ですか? 黒、茶、炭色、白の4つの中で最も多いのは白。理由は、毛を好きな色に染めて加工しやすいからです。次に茶、灰と続いて、一番数が少ないのは黒。黒のアルパカの毛は最高級の価値があり、高く取り引きされることが多いんですよ。
傷つけずに毛を採り、土に還り、地球にもやさしい
― 昨年に引き続き、O0uでも秋冬のラインアップにアルパカニットがお目見えしていますが、どんな点がO0uのコンセプトに合うのでしょうか?
1頭のアルパカから毛を刈るのは、1年に1度。私たちが髪を切ってそれを素材に糸をつくるようなイメージで、刈ってはまた生えてきますから、命を傷つけることなく何度も毛が採れます。
天然素材ですから、土に埋めても微生物に分解されて、そのまま土に還ります。動物にも環境にもやさしいのが、アルパカの特徴です。
それに、O0uが展開している「無染色」のアルパカニットは、毛を染めずにアルパカの自然な毛の色を活かしてつくられています。毛を染める工程には大量の水が使われていて、1kgの繊維を染めるためには、100L~150Lの水が必要だとも言われています。染めの工程を省くことは、大きな水の節約につながるのです。
適切なお手入れ方法を続ければ、何年も長く着続けることができます。こう聞くと、アルパカニットはとてもサステナブルな素材だとわかるでしょう?
―本当にそうですね。エシカルな特徴とO0uの加工のこだわりを知ると一層、魅力的なニットに思えてきます。
O0uで使っているのは、「スーパーファイン」という選りすぐりの良質な毛。アルパカは頭に近いほど毛が細く、触り心地の良い糸ができるのですが、スーパーファインはだいたい首のあたりの毛。だから、着心地は抜群です。
スーパーファインの上には「ベビー(子どものアルパカの毛)」と、アルパカ繊維の中で最も細い20ミクロン(0.02mm)の「ロイヤル」があります。同じアルパカの毛でも、いくつもの等級に分かれているんですよ。
標高4000メートル、マイナス20度に耐えうる毛
―アルパカの毛には、どんな特徴があるのでしょうか?
すごく軽くて、暖かいのが一番の特徴です。その理由は、アルパカの毛の形状にあります。アルパカの毛を切って中を見てみると、空洞になっているんですよ。だから、軽くてふんわりやわらかい。空洞が空気を含むので、保温性が高く、ニット1枚でもポカポカと暖かいんです。
アルパカは標高4000メートルほどのアンデス高原に生息しています。夏は40度を超え、冬はマイナス20度を下回ることも。そんな過酷な環境で生きるために、強くて暖かい毛に覆われているのです。厳しい冬を乗り切ることができるアルパカの温もりを、私たちは分けてもらっているんですよ。
―なるほど。感謝の気持ちを持って長く着続けたいですね。お手入れは難しいのでしょうか?
動物の毛の表面は、人間の髪の毛でいうキューティクルのように、「スケール」といううろこ状の組織で覆われています。アルパカの毛はスケールの凹凸が小さいので、繊維同士が絡まりにくく、あまり毛玉ができることはありません。ウールニットの毛玉が気になるなら、断然アルパカニットをおすすめします。
アルパカは、繊維の中の空洞が空気を含み、まるで息をしているかのような素材です。ドライクリーニングで大切にお手入れをして愛用してください。
自然の中で暮らし、私たちの暮らしに温もりを届けてくれるアルパカたち。この自然を壊さないように、アルパカがどんなところでどんな風に生息して、毛がニットになるまでにどんな過程を経ているのか、きちんと知った上で手にしたいものです。
ぜひO0uのアルパカニットをきっかけに、遠くペルーで生きるアルパカたちや地球に想いを馳せてみてください。
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Profile:
賀部 哲(カベ サトシ)
O0uマテリアルスーパーバイザー。1955年、東京生まれ。国内のあらゆるアパレルブランド、メーカーなどから依頼を受け、ファブリック素材の開発や、テキスタイルデザイン、素材のクオリティ管理や仕入れ管理などの務を行っている。多くのデザイナーから絶大な信頼を受ける素材の達人。
INFORMATION
アルパカニットコレクションはこちら
https://o0u.com/collections/alpacacollection2022
WRITER:佐藤葉月
ILLUSTRATION:くらちなつき