MY SUSTAINABLE LIFE
2022.11.17 THU
MY SUSTAINABLE LIFE
#22
ベイカー恵利沙"もっと自由に選んで"
2017年にニューヨークへ移住し、モデルやスタイリスト、エディターや企業と協同したコンテンツ開発など、さまざまな分野で活躍中のベイカー恵利沙さん。地球環境や人権など社会問題への関心が高く、日常も仕事も「サステナブル」とは切っても切り離せないものになっているのだとか。
そんなベイカーさんに、日本への一時帰国中の時間をいただいてインタビュー。ニューヨークで暮らして感じた自身の変化や、日常へのサステナブルの取り入れ方のコツなどをお話いただきました。
もっと自由に、好きなものを選んでいい
―ニューヨークで暮らし始めて5年以上が経っていますが、日本にいたときと比べてご自身が変わったと思うことは何ですか?
ニューヨークは私にとって、とても生きやすい場所。昔の私は、自分のやりたいことを押し殺して、みんなに合わせて、でもやっぱり辛くて「ダメだ!」となることを繰り返していました。どうしてもGoing my wayに生きることができなかった。でも、ニューヨークはいい意味で他人に干渉をしない文化があって、それがとても楽に感じます。
ニューヨークに行くと決めたとき、まわりの人に話したら「どうして?」「仕事はどうするの?」「お金は?家は?」と色々なことを聞かれて、心配してくれているからだと分かっていても、私自身その答えを持ち合わせていなかったので、決意が揺らいでしまうほどでした。でもいざニューヨークに着いて、「家も仕事もないけど、来てみたよ」と話すと、「That’s the best way to come to NY!」と答えるだけで、それ以上何も聞かれない。それを冷たく感じる人もいるかもしれないけど、それでいいんだと肯定してくれる環境に身を置いて、私はすごくホッとしました。
―では、今はとても自分らしく生きられているのですね。
そうですね。それに、「なんでも自由に選んでいいんだ」という気付きを得たことも、プラスになりました。例えば、ムダ毛を処理する、ブラジャーをつけるということすら、好きにすればいいと。ニューヨークではブラジャーをつけていない女性もとても多くて。
これまで当たり前に思ってきたことでさえ、一つ一つ見つめ直すと、自分で選んだものではなく、誰かに合わせた選択だったんだとわかって、視野が広がったように思います。
―モデルやスタイリスト、エディターなどいろんな顔を持っているベイカーさんですが、今は、ニューヨークでどんな活動をしているんですか?
仕事のことを聞かれるのが、一番苦手です(笑)。実はアメリカではもう2年ほど、固定の仕事をしていないんです。コロナ禍でニューヨークがロックダウンしたときに、現地では4人に1人が失業したと言われているんですが、私もその1人で。でも、日本から声をかけてもらって、旅に関することや、サステナブルな商品を作っている会社のコンテンツづくりのお仕事をリモートでしていたものの、それが同じタイミングで終了してしまって…。日本に帰ってきて、今後のフリーランスの仕事も有り難いことにいくつか決まりましたが、帰ったらアメリカでも現地の仕事をまた探そうと思っています。
友だちには、「いつも家と仕事を探しているよね」と言われるんです。その通りで、ニューヨークに来たときも家が決まっていなかったし、今も引っ越し先を探し中。いろんな仕事にチャレンジして、自分でも何をしているのかわからないというのが日常で。まわりから見たら、そうは感じないかもしれないんですが、いつも何かを探しています(笑)。
大学を卒業してからずっとそんな感じですが、いつもなんとかなっている。まわりが手を差し伸べてくれるし、自分から何かを発信し続けていたら、そこからつながる世界があるんです。
買い物は、社会を変える投票
―今後は、どんな活動をしていきたいと考えていますか?
具体的にこれというものはないのですが、ニューヨークに来てから社会問題への関心が高くなっているので、社会に対してもっと積極的に関与していきたいと思っています。コロナ禍でニューヨークシティから郊外に移り住んだのですが、いつかは社会を良くすることに少しでも直接関わることの出来る仕事ができたらいいなと。
Instagramなどでサステナブルに関する情報を発信しているからか、最近はそういったトピックのお仕事で声をかけていただくことも増えていて、とてもうれしいです。どんなに小さな範囲でも、社会をより良い方向に変えていけるような活動を、ライフワークとして続けたいです。
―そのように、社会問題に関心を持つようになったのは、どうしてなのですか?
まわりの影響が大きいですね。ニューヨークに住む友人たちは、ファッションやメイクの話をする流れで、まったく変わらないトーンで人種や環境、性差別の話をします。それが当たり前だから関心を持たざるを得ないですし、ニューヨークはさまざまな人種が集まる街なので、課題が常に身近にある。私自身もその一員。自分ごととして捉えるようになって、関心が高まりました。
―ニューヨークと日本では、サステナブルや社会問題への関心度合いが大きく違うんですね。
そうですね。ニューヨークの人たちは、地球に暮らす者としてできることをしなくちゃいけないという意識が強い。ものを買う基準も厳しいです。人種差別をするような企業からは、すぐに離れていきますし、バッシングも大きい。以前、大学の社会人コースで学んでいたときに、20歳前後の学生たちと購買基準に関するディスカッションをしたんですね。そのとき、みんな口をそろえて人種差別、女性のエンパワーメント、動物の権利、環境に配慮していない企業はダサいから、そういうところからは買いたくないと話していて。そういうものを薦めるインフルエンサーもアンフォローすると。何がクールで何がクールじゃないか、その価値観がはっきりしているんです。
「買い物は投票だ」という言葉がありますが、消費者に力があることをよく認識しています。だから企業側も変わらざるを得ない。消費者の意識が変わって、企業が変わると、世の中が良くなる。それはとてもいい流れですよね。
無理をせず、身近なものから変えていく
―日本では、サステナブルや社会問題はハードルが高いものだと思われがちですが、誰でもとっかかりやすい行動はありますか?
日々よく使うものから見直していくのがオススメです。ものを買うって、社会と直結していますから。私も自覚を持つまでは気軽に何でも買っていましたけど、見直してみたらすごく気持ちがいい。よく考えたら、一生懸命に稼いだお金を変な企業に使いたくないですよね。環境にいいという以前に、自分にとって満足度の高い買い物ができると思います。
私は最初、キッチンまわりの日用品を変えることから始めました。キッチンって毎日たくさんゴミが出ますよね。だから、買い替えるタイミングで少しずつ、ゴミが出ないものに変えていったんです。ラップなら蜜蠟ラップに、ジップロックならシリコンバックに。大好きで毎日飲んでいたコーヒーも、ステンレスボトルを買ってそれをお店に持っていくようになりました。
―そういう身近なものから見直していくのは、取り組みやすいですね。繰り返し使えるものなら、買いに行く手間も省けるし、経済的ですし。
それに、暮らしが便利になりました。シリコンバックはオーブンにも食洗器にも入れられるし、冷凍もできる。例えば、残った味噌汁を入れたら、食べるときにレンジで温めることも出来る。コーヒーもプラスチックのカップのものを買うと、ずっと蓋を上にして手持ちしないといけないけれど、ボトルに入れたらバッグの中にポンっと入れておけてラク。それに、氷がずっと溶けずに長くおいしさを保てるし、エコだからというよりも、便利だから使いたいと思うようなものがとても多いんです。
―ファッションアイテムを選ぶ基準は、何かありますか?
日用品と違って、洋服など身につけるものは、自分が好きだと思えるかを最優先にして選んでいます。「サステナブルなものだから」という理由だけで買うのは、ファッションの楽しさを犠牲にしているような感覚があって。それに、買っても使わなければ意味がないなと。だから、まずは「これが好き!」という直感を大事にして、その後に必ず、それがどんな素材でつくられているのか、どんな会社でつくられているのかなど、裏側を見るようにしています。
それが女性のエンパワーメントをうたう広告を出している会社のものだったら、もっとその服が好きになるし、逆に環境に配慮せずにつくられているものだったら、その服が素敵に見えなくなります。
だからといって、私が持っているものすべてがサステナブルなものかと言ったらそんなことはありません。無理をし過ぎると、続かないですから。サステナブルに関心を持ち始めた当時は、絶対にここの商品は買わないとか、かなり潔癖になっていました。でも、自分1人で100%完璧にしなくてもいいんだと気付いて。自分にできることを最大限やって、それ以外の部分はまわりと分け合えばいい。みんなで一緒に取り組んでいくことが、その先につながっていくと思います。
―O0uのコンセプトに対してはどんな感想をお持ちですか?
ファッションって、食品やコスメなどに比べて、透明性が低い業界だと思います。だから、誰もが知っている大きな会社が、O0uのようなブランドを立ち上げてサステナブルに取り組んでいるのはすごく素敵なことだなと。今日着ているブラウスとジーンズもかわいいし、着心地がとってもいいです。やっぱりファッションはデザインが気に入らないと意味がないので、サステナブルだしかわいいというのは、大事ですよね。
最初に道を開拓していく立場は大変だと思いますが、誰かが始めないといけないこと。このようなブランドがあってとても嬉しいです。
Profile:
ベイカー恵利沙
1989年1月生まれ。ファッションを愛し、モデルやスタイリスト、ブランドコラボなど幅広く活躍。現在はニューヨークにてサステナブルファッションや社会問題にも向き合う。ランナーとしての顔も持ち、過去フルマラソンには7回出場。女性をエンパワーする発言や行動が多くの女性の共感を呼んでいる。
INSTAGRAM:@bakerelisa
INFORMATION
ベイカー恵利沙さん着用アイテム
・【VASE O0u】TUCK BLOUSE ¥16,500
・【Made in Japan岡山産 】ORGANIC DENIM TAPERED PANTS ¥13,900
Photo: hyogen 河野涼
Text: 佐藤葉月