サステナブルな時流が高まり、多くの企業が地球のために様々な取組を行っています。それは外食産業だって同じこと。多くの飲食店が美味しくて、なおかつ地球に優しいご飯を作るのに頑張っています。ところで、実際にどのような取組を行えば、サステナブルなレストランとなるのでしょう? そこで一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)が認定する、持続可能なフードシステムを実現するための飲食店格付けプログラム「FOOD MADE GOOD」にて、日本初の三ツ星を獲得した〈ハイショップカフェ〉をはじめ3店舗の総料理長を務める、Innovation Designの中神さんに聞いてみました。
調達、社会、環境がレストランのキーワード
構えるのは、横浜みなとみらい、馬車道近くの風光明媚なエリア。2019年9月にオープンした〈ハイショップカフェ〉が提供する食事やスイーツは、どれも環境にも人にも優しい食材を使っています。それもそのはず、このカフェは日本サステイナブル・レストラン協会に加盟し、しかもFOOD MADE GOOD三つ星認定を獲得するグッドレストラン。食材選びをはじめとした店舗運営だけでなく、社会や環境に対してもしっかりと配慮した取り組みを行っています。
ところで、三つ星を獲得するには、具体的にどういったことに取り組んでいるのでしょうか。
〈ハイショップカフェ〉総料理長である中神さんは、おいしくてサステナブルな料理を次々と開発。手掛ける店舗が日本で初めてFOOD MADE GOOD三つ星の称号を手にした。
「一言にサステナブルレストランと言っても様々な観点があります。評価される項目としては、地産地消や旬な食材の推進、アニマルウェルフェア、フェアトレードなどの“調達”、地域コミュニティへの支援などの“社会”、リサイクルや食品ロスなどの“環境”という3つが鍵となります。これらを更に10項目に分けて調査し、その総得点でサステナブルレストランとしての“星の数”が決まります」
このサステナブルレストランの格付けプログラムは、2010年に英国で設立されたサステイナブル・レストラン協会(SRA)がはじめたもの。この協会には、世界で多くの店舗が加盟し、12,000店以上のレストラン、飲食店に影響を与えています。
横浜・みなとみらいの運河沿いという絶好のロケーションにある〈ハイショップカフェ〉。写真提供:Innovation Design
「世界のフードシステム上では、気候危機による異常気象や農薬、化学肥料による土壌汚染、森林破壊、さらには海洋プラスチック問題や食品ロスなどなど、さまざまな環境問題があります。さらには働く生産者の貧困、児童就労・強制労働、過剰な農薬投与による健康被害などの社会的課題も。それらすべてを解決すべく立ち上がった団体がサステイナブル・レストラン協会なのです。SDGsに対して、外食産業が総合的に取り組むため、ということですね。」
調理法を工夫すれば食材ロスは減らせる
中神さんたちがサステナブルな取組に本腰を入れるのが2020年1月。調理法から食材選びまで、改善に改善を重ねた末に、三ツ星を獲得できたと語ります。
「まず意識したのが、地産地消などの調達の部分です。まずはじめたのが有機栽培を行っている農家さんを探すこと。東京は半径160キロ、その他の地域半径80キロ以内と決められています。また肉類は国産飼料のみを使用した生産者さんから、卵は放し飼いを実践しているところから仕入れています。魚は伝統的漁法で取れた天然の魚のみ。それも未利用魚と言われる、形やサイズが不揃いだったり、漁獲量がまとまらなかったりなどの理由で市場に出まわらない魚を使うことで、資源の無駄をなくすことも意識しています」
千葉県にある柴海農園をスタッフのみんなで訪れた際のひとコマ。ここの美味しい野菜は〈ハイショップカフェ〉のメニューに欠かせないという。写真提供:Innovation Design
地産地消することは、地域経済の活性化はもちろんのこと、運送距離が短い分二酸化炭素排出量の減少に貢献。効率もよく、とてもサステナブルな方法なのです。
また提供するコーヒーやバナナは、すべてフェアトレードのものを使うなど、輸入食材に関しても厳しくチェックしています。そしてなるべくゴミを出さずに、調理することも徹底しているそうです。
なぜ、そこまで徹底するのか。その原点は、自身の修行時代の経験にありました。
コーヒー豆やバナナなどは、フェアトレードのものを厳選。発展途上国の貧困な生産者や労働者の、生活改善と自立を支援する運動を心がけている
「日本の飲食業界では、調理の際に出たゴミを躊躇なく捨ててしまいますし、そこが問題視されることもありませんでした。またビュッフェレストランに代表されるように、お客様の満足を考慮した結果、食品ロスが多くなるケースもあります。ただ僕が修行した店は食品ロスに厳しく、まかないを作るときに、本来は躊躇なく捨ててしまうようなものを渡され、調理しなければいけませんでした」
まかないを担当した思い出として印象に残っているのは、イワシの頭、にんにく、大根の切れ端を渡されたときのこと。試行錯誤をして、イワシの頭はつみれ、にんにくと大根はスープにしたんだとか。そんな経験が、今のメニュー開発に活きているようです。
人気メニューが、139gの“もったないおにぎり”。日本の食品ロスの平均、1日139gであることを表現。価格も139円
日本では特に食品ロスが問題になっており、その量は年間で約646万トン。平均すると国民1人あたりが1日に139gの食品を捨てていることになります。カフェの人気メニュー、“もったいないおにぎり”と同じ量が、たった1日で捨てられるのです。企業だけでなく個人でも、残さない、余計なものは買わない、頼まないという意識を持つことが大切。そんなことをさりげなく教えてくれるカフェでした。
楽しみながら食すことが大切
地域コミュニティにも、〈ハイショップカフェ〉は大いに貢献しています。取材当日も地元の中学生を対象にしたワークショップを行うなど、食を通した教育である食育にも力を入れています。
「現在では様々な学校が協力してくれていて、ご好評を頂いております。環境問題や社会的な課題を解説しながらも、食事を美味しく楽しみながら食べるという本質をお伝えしています。またヴィーガンメニューにも力を入れていて、地元の大学生とともに、横浜の地産地消を目的としたヴィーガンラーメンを作ったんです」
横浜の大学生と、地元の地産地消をテーマに作ったヴィーガンラーメン。横浜は中華のイメージが強いので、担々麺にした
このヴィーガンラーメンは、横浜市内の大学生とタッグを組み、クラウドファンディングを行うなど、画期的な取組になっています。またレストランでは毎週月曜日に「ミートフリーマンデー」というイベント行っており、そこでは地球保護のための菜食メニューのみを提供するなど、エンターテインメント性も兼ねた取組を行っています。
肉類は実は温室効果ガスの排出割合が高い。この削減を目指してミートフリーマンデーが生まれたそう。画像提供:Innovation Design
「サステナブルな意識も大切ですが、基本は来てくれたお客様においしかった、楽しかったと満足してもらえることが大事。そして私たちは、食材を育てた生産者の思いやこだわりを、料理を通してお客様に伝えることも使命だと思っています。理想は、うちで食事をしてもらうだけで知らぬうちに環境へ配慮できるお店作り。これからの地球のために、飲食店が率先してできることをやっていこうと思います」
写真提供:Innovation Design