INSPIRATIONS
2021.10.22 FRI
ECO-FRIENDLY PIONEERS
#15
“廃棄りんご”がバッグに変身!?
今回訪れたのは、足立区にあるニチモウという企業。〈O0u〉のバッグにも使われる通称“アップルレザー”をはじめ、多くのサステナブルレザーを取り扱っています。皮革産業を取り巻くさまざまなサステナブルについて、取材しました。
革に彩りを与える、優れた加工技術を誇る
レザーは、人類が古くから活用してきた素材。衣類に使えば保温性に優れ、また耐久力にも優れるためバッグやシューズ、グローブなど革小物として多用されてきました。最近ではファッションのひとつとして楽しまれるため、天然そのままのレザーよりも、色とりどり、柄もさまざまなレザーをよく目にします。シルクスクリーンプリント、箔押し、型押し、インクジェットプリント。そういった皮革に彩りを与える加工を得意とする企業が、今回訪ねたニチモウです。営業を担当する阿部さんに、どんなレザーを取り扱っているのかを伺いました。
「靴やバッグをはじめ、アパレル製品に使われる、山羊革を中心に各種レザーを取り扱っています。前身会社は旧日本軍が使う革製品の供給を担っていたほど。現在ではプリントをはじめとした、皮革加工業が主な業務内容となります」
皮革加工をはじめてから20年以上。積んできた経験と知識は、計り知れません。こうして培われた、卓越した技術力をもって作るプリントレザーは、まるで本物の希少動物の革かと思うほどリアルだったり、一見は革とはわからないほどユニークだったりと、色も柄もさまざまで、非常に精巧。それもそのデザイン数は、なんと1シーズンで100種以上。
「毎シーズン、流行を意識しながら日本人に合うデザインを模索し製作しているのが特徴です。ご要望があれば、オリジナルデザインを提案することもできます」
確かな技術力と新たな発想を持って、挑戦し続けるニチモウは最近、さらなる要望に応えるべく、サステナブルにもチャレンジしています。例えば、型取りをしたことで生まれる余剰革を細く取り、エシカル素材とともに編みこむことで無駄なくレザーを活用できるようにした“KNITコレクション”もそのひとつ。これまで廃棄するはずだったものを活用することで、 “ゼロウェイスト”や“アニマルフリー”に挑戦しています。
「皮革産業にも、サステナブルの気運が高まっています。どうすれば応えられるかを、常に模索しているところなんです。そんななか出会い最近プッシュしているのが、アップルレザーをはじめとした、植物由来のヴィーガンレザーです」
ヴィーガンでも、風合いはしっかりレザー
ヴィーガンレザーはその言葉のとおり、植物性素材を使ったレザーのこと。特にアップルレザーに使われるりんごは、他の野菜や果物よりもバイオマス(再利用可能な有機性の資源)として活用できる効率が最も高い素材として、注目を集めています。
「サステナブルに対して熱心な篤志家が投資する香港企業が開発した製品を、正規代理店として扱っています。このアップルレザーは、傷んで商品にならなかったり余剰に作られてしまったりして、廃棄予定となっていたりんごを余すことなくアップサイクルできるところの特徴です」
りんごそのものはもちろん、りんごジュースも木材パルプと混ぜて粉砕。これをシート状にして、ポリウレタンで加工したコチラは、表革だけでなく裏基布にもりんごを使っているとのこと。結合材に使うポリウレタンも、毒性の少ない水性ポリウレタンを使っていて、光化学スモッグを引き起こす原因物質も一切含まない。
世界的に問題となっているフードロスの解決の一助にもなり、動物愛護の観点からも愛用されやすく、それでいて本革を思わせる細かなシボやソフトで軽やかな手触りも堪能できる。天然皮革を加工製造するよりも、CO2排出が少ないところもメリット。まさにいいこと尽くめな革新的存在です。
しかもこのアップルレザーは、複数の国際認証も取得済み。農産物・森林資源・海洋物資などの再生可能資源から作られた製品に与えられるサスティナビリティ認証“USDA”、 繊維製品に含まれる可能性のある有害物質を規制し、国際動物愛護団体PeTAが行っているヴィーガン製品の認証も受けています。また人体に対して有害もしくは有害と考えられている化学物質が含まれていないことを認証するエコテックス®スタンダード100も申請中。地球環境にも人体にも優しい素材なのです。
こうした素晴らしい素材は、〈O0u〉の3WAY バッグにも採用。もちっとした生地感ときめ細やかな表情は、さながら本革のようで上品。それでいて耐久力もあるから長く愛用できる。サステナブルをテーマとする〈O0u〉にこそ、ふさわしい素材なのです。
レザー業界が向き合うサステナブル
このアップルレザーをはじめとした、ヴィーガンレザーを取り扱うということは、本業であるレザー製品のシェアを奪ってしまうことに。一方で、世の中がよりよい環境になり、持続可能な社会になることは、喜ばしいこと。こうした事情を踏まえて、ニチモウが今後取り組んでいきたいサステナブルとはなんでしょう。
「“アニマルフリー”であることは確かに大事なことかもしれませんが、本業としては正直さみしい限り。こうした革新的な素材も今後のためには確かに必要ですが、そもそも皮革製品は食肉加工の副産物がほとんどなので、それ自体がサステナブルなんです。また世界にはそのまま利用できない皮がいくらでも余っている状態。なので、レザーとヴィーガンレザーの供給バランスをもっと整えていけたらと思います。
技術も格段に向上していますから、例えば未利用皮から糸を作ったり、リサイクルレザーの質をもっと高めたり。地球や動物の環境にも、そして社会にも。レザー製品を無理なく、無駄なく楽しめるように、業界全体で取り組んでいきたいですね」
INFORMATION
Photo:穂刈麻衣(BOIL)
Edit&Text:八木悠太