INSPIRATIONS
2021.01.21 FRI
ECO FRIENDLY PIONEERS
#18
人にも環境にも負担のない1足
多くのモノであふれる現代、そのモノ作りにおいて地球環境に配慮されていることは、作り手側にとっても、消費者にとっても、今では当たり前のこと。しかし“サステナブル”なんて言葉もなかった20年近くも前から、環境汚染を減らす素材を追い求め、かつ生産者や労働者の環境を公平に保つことに注力をしているブランドがあります。それがフランス発のスニーカーブランド〈VEJA(ヴェジャ)〉。いったいどんなサステナブルなストーリーがあるのか、今回はコチラにフォーカスを当てます。
スニーカーで作る、フェアな世界
〈ヴェジャ〉がブランドとしてスタートしたのは、2004年のこと。創業者は、フランソワ・ギラン・モリィヨンとセバスチャン・コップ。彼らは当初ファッション業界でのキャリアはなく、もともとはITベンチャーの立ち上げを目指していたとのこと。そんなふたりが、なぜスニーカーブランドを立ち上げることになったのか。そのきっかけは2003年、彼らが25歳のときに目にした、中国のファッション工場の状況にあったといいます。
ファッションブランドの監査のために訪ねたその工場。場内は清潔に保たれ、また労働条件も良好だったものの、従業員たちは非常に疲れた様子に見えた。実は従業員が暮らす居住区は、中央にシャワーとトイレを兼ねた穴と、それを取り囲む5段重ねのベッドが並ぶ狭い部屋に、30人以上が寝るという、劣悪な環境だったといいます。
「私たちや家族、友人たちが毎日着る服が、こんなところで暮らす労働者たちによって作られているのか」。2003年ごろの大企業はすでに“サステナブル”に近いコンセプトに掲げていたが、実際には口だけで行動には移していないのが現状でした。
一方で創業者のふたりは当時、フランス初のフェアトレードブランド〈アルテルエコ〉を立ち上げたばかりだったトリスタン・ルコントと一緒に仕事をしていました。その人は、世界中の生産者や農家と直接関わりながら、オレンジジュース、紅茶、コーヒー、チョコレートなどを作っていました。
中国の一件と、トリスタンの仕事。この両方を目の当たりにしたふたりは、フェアトレードで経済を変え、よりバランスのとれたものにし、生産者と消費者の間でより公平なやりとりができるようにする製品を手がけようと決心。10代のころに大流行したストリートの象徴で、ふたりの青春の象徴でもあったスニーカーで、関わるすべての人がフェアなやりとりができる仕組みを築くことに取り組みはじめたのです。
全工程で、誰も不利にしない
こうした経緯で立ち上げられたスニーカーブランド〈ヴェジャ〉。「地球と人に敬意を表するスニーカーを作りたい」とまずはじめたのは、原料の調達から完成品までの、生産の過程を見つめ直すことでした。どの工程においても不平等なことがない環境や社会を探したところ、スニーカー作りのすべてが揃う、ブラジルにたどり着いたのです。
天然のゴムの木と共存しながら、生ゴムを採取して暮らす人々。無肥料・無農薬にこだわり、コットンの自然栽培に取り組む人々。さらには彼らをきちんとサポートする生産者団体やNGO団体。そんな人々にアプローチし、話し合い、真摯に向き合うことで、直接の取り引きに成功。上質で環境に配慮された素材をきちんと確保できるようになりました。
最初の契約では市場価格の2倍を支払ったことから、創業者のふたりは現地の人々から“狂ったフランス人”と呼ばれていましたが、あくまでフェアトレードの原則に則った金額。現在でも互いに良好な関係を保つことに成功しているのです。
またスニーカーの生産も、ブラジル南部のポルト・アレグレの工場と契約。その工場は、労働時間も適正で、82%の労働者が組合に加入するなど、生産能力以外の面でも公正な環境を徹底していました。さらには近くに〈ヴェジャ〉のオフィスを構え、スタッフが労働状況を確認。
このように、〈ヴェジャ〉のスニーカー作りに関わるすべての人々に、不平等のないモノ作りを徹底しているのです。
ところで、大手スポーツブランドや、巨大なストリートシーンを牽引するブランドに比べると、〈ヴェジャ〉はまだまだ知らない人も多いブランドです。その理由は、広告宣伝に費用を使っていないから。大手ブランドのスニーカーは、そのコストの70%が広告宣伝費に使われているというデータもあり、その分原材料や生産のコストを抑えることになります。
一方で広告展開をしていない〈ヴェジャ〉は、大手ブランドが広告宣伝に使う分を、原材料の調達やスニーカーの生産に振り分けることができます。環境に配慮したスニーカー、経済的に公正なスニーカーをきちんと生産するとなると、通常の5倍はコストがかかる。しかし〈ヴェジャ〉は広告宣伝を排除し、生産者と直接取引することで無駄な経費を削減。結果、大手ブランドと変わりない価格で提供ができ、なおかつ誰にでもフェアであるスニーカーが作られているのです。
地球と人に敬意を表して
スニーカーが出来上がった以降にも、地球と人に敬意を表している点にも注目。
まずスニーカーの輸送は、航空便に比べてCO2排出の少ない船便を優先的に選択。2019年には全体の81%が船便、19%が航空便での流通でしたが、2021年からは航空便利用ゼロを目指して取り組んでいます。
またスニーカーの保管、オンラインストアの管理、また世界中に靴を発送するなどの物流部門を、フランスの非営利団体“国境なきアトリエ”に委託。毎年100人あまりの社会的弱者に就業先を見つけ、安定した社会生活を取り戻すための支援を行っている団体に依頼することで、これまでに215人以上の社会復帰を実現してきたといいます。
このように徹底して環境と人に配慮した取り組みで成長してきた〈ヴェジャ〉は、スニーカー作りのすべてをウェブ上で公開している。シンプルで清潔感のある製品デザインはもちろん、 “透明性”の高いビジネスデザインも、現在の人気の理由。知れば知るほどに応援したくなる〈ヴェジャ〉に、今後も注目していきたい。