INSPIRATIONS
2021.12.31 FRI
ECO-FRIENDLY PIONEERS
#17
伝統の“染め”で、新たな息吹を
染めは江戸時代からあるアップサイクル。
個人店が多く立ち並び、どこかレトロな空気感を持つ東京・三軒茶屋。今回、取材する“モデステイ インダストリー”は、そんな平和な商店街で、洋服とホットドッグを販売する〈サリーズジャーニー〉というショップを構えています。そこにはアトリエで作れたハンドメイドの新作が不定期にリリースされ、いつ行っても新鮮なラインナップを揃えています。現行のボディメーカーを使うこともありますが、基本的には古着か、ヴィンテージを染めたアップサイクルアイテムが中心。しかしオーナーである兄のRonnさんは、サスティナブルな取り組みを狙ったわけじゃないと笑います。
「セレクトショップやドメスティックブランドのスタッフを経て、2016年に弟と一緒に〈モデステイ インダストリー〉を立ち上げました。弟は美大で染色を学んでいて、彼の高い技術を活かしたモノ作りをしようと思った結果、今のスタンスに行き着きました。だから最初からサスティナブルなモノ作りをしようと志が高かったわけではないんです(笑)」
川田さんは10代のころからスケボーや洋服を通じて、自然とアメリカのプロダクトに惹かれたそう。それと同時に大量生産、大量消費するスタンスに違和感を覚えました。
「ずっと洋服に携わってきて、世の中にモノがありふれている現状は理解していました。だから自分たちが、わざわざ新しい洋服を作る必要はないと思ったんです。それなら歴史に埋もれてしまった古着やヴィンテージに染めを施すことで、新たな価値観を提案した方が自分たちらしいなと。染めの歴史を振り返ると、江戸時代からアップサイクルらしい要素もあったそうです。“襤褸”がいい例で、布が貴重な時代ですから、直して、染めて、使い続けていくスタンスは、今の時流にも合っていると思いますね」
日本の伝統的な技法を駆使する
アメリカのプロダクトで“染め”と聞くと、フラワームーブメント全盛の1970年代に流行したタイダイ染めをイメージする方も多いと思います。この手法は素人でもできてしまう原始的なもの。一見、〈モデステイ インダストリー〉が作る染めアイテム、タイダイのような簡素なものかと思いきや、その実まったく異なります。
「タイダイはいわゆる絞り染めの1種で非常にシンプルな手法なんです。タイダイを否定するつもりは毛頭ありませんが、多くのブランドでもやっている手法なので、うちらしさを出すのが難しいなと。〈モデステイ インダストリー〉が活用する手法は、色糊を使った筒描き染めをはじめ、捺染、本藍染めが中心です。すべて東京にあるアトリエで、弟がフルハンドメイドで製作しています」
まるでプリントのように精巧なグラフィックを、すべて染めで表現しているというから驚き。それも染色しやすいコットンだけでなく、ナイロンからニットまで様々なアイテムが並びます。
「今も試行錯誤を続けていて、一般的には染めることができないファブリックも挑戦してきました。先日はレザーのスニーカーも染めましたし、染めてないファブリックはほとんどないかもしれませんね(笑)。また染色の技法をものによっては、織り交ぜたりするので、非常に複雑で手間暇のかかる工程を経て、製品ができあがります。ものによっては、染色と乾燥を繰り返して1週間以上かかるものもありますよ」
ひとつひとつの服と向き合う
伝統的な手法を使ったファッションプロダクトはこの世に多く存在するが、和のテイストを強く打ち出しすぎていたり、その技法をこれ見よがしに使ってしまっていたりするものが多いのも事実です。一方〈モデステイ インダストリー〉のモノ作りは、昔ながらの技法を使いながらも、スタイリッシュかつ押し付けがましくなく、なにより“いまどき”な印象。素直にかっこいいと思える、まさに“アップ”サイクルなアイテムです。
「うちのスタンスとしては、ひとつの手法で量産するわけではなく、ベースとなる古着やヴィンテージに合う手法をひとつずつ考えて手がけます。大袈裟に言ってしまえば、すべて1点ずつデザインする心積もりですね。弟もアパレルで勤務していた経験があり、ふたりとも大の服好き。だからベースとなる服もなんでもいいわけではなく、MA-1だったらこの色しか使わない、みたいなこだわりがあるんです(笑)」
古着好きのかゆいところに手が届くような感覚は、こういったこだわりがあるからこそ。ベースとなる古着は、兄弟がお互いに提案し、納得のいくものだけを採用。ふたりの信頼関係のよさが伺えます。また染色に使う手法は、基本的に“反応染め”が主流。それゆえ仕上がりが想像と異なることも時折あるんだとか。
「ブランドとコラボすることもあるので、お客様の私物を染めて欲しいとのオーダーは一部の例外を除いて基本的にお断りしています。うちの技法は、インディゴ染めに代表される反応染めが基本。空気と触れることで着色するのですが、コントロールが非常に難しいんです。だから大事な私物の仕上がりがブレてしまうこともあるので、お断りしているんです。自分たちで手がけていても、もちろん失敗はあって、でも悪いことばかりではなく、逆に思っていた以上の仕上がりになることもあるので、そこにいつもやり甲斐と面白さがあります。」
川田さんの言葉からは、お客様の服を想うからこそお断りをするポリシーであること、そして何よりも、この世に生まれた服を大切にしたい気持ちが伺えます。
“染めは江戸時代からあるアップサイクル”。モノを長く使うという日本人の美徳と、モデステイ インダストリーの信念がこの時代に強くリンクしていることを感じられた時間となりました。ぜひ店頭に足を運び、丁寧な手仕事に触れて欲しい。
INFORMATION
Sally’s Journey
東京都世田谷区三軒茶屋1-9-13
03-5787-5683
12:00〜22:00(時間短縮する場合あり)月曜定休
http://modesty.shop-pro.jp
https://www.instagram.com/modesty_industry
Photo:渡辺昌彦
Text:佐藤周平 Edit:八木悠太