INSPIRATIONS
2022.01.11 FRI
ECO FRIENDLY PIONEERS
#19
いつでも海とつながる、1本のロープ
今回取り上げるのは、ライフスタイルブランド〈SEAMANMADE(シーマンメイド)〉。マリンスポーツのひとつ、セーリングで使うヨットロープの端材を再利用した、アップサイクル雑貨をメインにしたブランドです。このブランドを手がける伊藝さんとholidayさんに話を伺うと、単なる再利用ではなく、サステナブルのあり方や海を愛する気持ちが、じんわりと、でも力強く伝わってきました。
端材を活用したアップサイクルアイテム
セーリング競技で使う、ヨットロープ。その本来の使い方は、ヨットの帆と繋げてコントロールしたり、揺れる船上で荷物を固定したりとさまざま。丈夫で、水にも紫外線にも強く、ぱっと見でかわいらしいこのロープの端材に、伝統的なセーリングのロープワーク技術を組み合わせて、いろんなグッズに生まれ変わらせた製品を展開するブランドがあります。それが、今回注目する〈シーマンメイド〉というライフスタイルブランド。
手がけるのは、プロセーラーの伊藝徳雄さんと、デザイナーのholidayさん。ともに葉山在住、それも目と鼻の先で暮らすご近所さんであるふたりは、地元のお祭りで共通の知り合いに紹介されたことで出会います。そんなふたりがヨットロープを活用したアイテムを手がける、そのきっかけはなんだったのでしょうか。
「ヨットロープを使ったアイテムは、伊藝さんが家の駐車場で仕事をしているときに制作していた“ソフトシャックル“を見かけたのがきっかけでした。ヨットロープの切れ端で我が家のワンちゃん用にドッグリードを作ってもらったら、とても可愛く、ものすごく気に入ったので製品にしてみない?と伝えて作りはじめたんです。プロセーラーである伊藝さん=海の男が作る。だから〈シーマンメイド〉というブランド名なんです」(holidayさん)
「ヨットロープは、物と物をつないで、操作したり固定したりと活用するもの。1本のロープで作られたこれらのアイテムが、人と人、海と人のつながりのきっかけとなれば、うれしいですね」(伊藝さん)
伊藝さん自らが作る〈シーマンメイド〉のアイテムは、アウトドア、室内、いろんなところで使えるアイテムが多くラインナップされています。大航海時代より伝わるロープワーク“ソフトシャックル”を用いて作るアイテムは、キーホルダーや、スマホホルダー、グリーンショップとコラボして誕生したS字フック“シーマンフック”にハンガーなどとさまざま。どれも色みが美しく、いろいろな活用ができそう。しかもそれでいて、ヨットロープの切れ端を使ったアップサイクルなアイテム。暮らしをより豊かにしてくれる、素敵な製品が揃っています。
プロとして、海の魅力を伝える
実は伊藝さんは、1997年の「日本チャレンジ2000」というクルーセレクションで狭き門をくぐり抜け、2000年に開催された世界最高峰ヨットレース「第30回アメリカズカップ・ニュージーランド大会」の日本代表に選ばれた経験を持つ、プロのヨットセーラー。現在でもセーリングにまつわるさまざまな仕事をしながら、世界の海で戦う、正真正銘の“海を愛する人”です。
「両親の故郷が沖縄で、小さいころから帰省のたびに海で遊んでいた記憶が強く残っているんです。加えて、いとこに連れられてトライしたサーフィンも楽しかった。そんな思いが漠然とあったためか、高校を卒業したのちにマリンスポーツのインストラクターを養成する専門学校に進みました。そこで、ヨットの魅力にどっぷりとつかっちゃいましたね」(伊藝さん)
その後もセーリング競技に関わることを仕事にしながら、ヨットレースに情熱を燃やした伊藝さん。前述のアメリカズカップを経験したのち、プロとして生きていくことを決意。セーリングやマリンスポーツにまつわるさまざまなことを仕事にしながら、今なお世界を転戦しています。
「プロとなったからには、仕事として船に乗り続けることが必要になります。そのためには、もっとマリンスポーツを盛り上げたり、海と人のつながりをもっと強くしたりすることが必要だと思い、いろんなことに挑戦しているんです」(伊藝さん)
2010年から毎年開催している “Feelin Ocean“というイベントもそのひとつ。現在はコロナの影響で開催されていませんが、「海の仲間、集まれ!」の号令とともに、世代やジャンルを超えた海にまつわる人が集まるイベントとして、毎年大盛況だったといいます。一方でそのイベントには、すでにご近所仲間として知り合っていたholidayさんも参加。
「ご近所での様子はもちろん、海の楽しさをいろんな角度から熱く表現する伊藝さんの人柄に、惚れこんじゃいまして。『伊藝さん、という人がいる。』というタイトルで手紙を作って、一緒に何かやりましょう!ってアプローチしたんです」(holidayさん)
「僕は、生まれは名古屋の中心地、パリでデザインを学び、その後東京をベースに生活と、生粋のシティボーイだったんです(笑)。結婚後にたまたま葉山に流れ着いたんですが、ここで伊藝さんと知り合い、海の楽しさや美しさを“伊藝さんを通じて”知ることができたんです。海に対するこれだけの情熱、パワーを持つ伊藝さんの魅力と、僕のデザインによってもっといろんな人に伊藝さんを知ってもらいたいという思い。このふたつが〈シーマンメイド〉のベースとなっているんです」(holidayさん)
みんなのハッピーこそ、サステナブル社会のもと
〈シーマンメイド〉は、製品自体はアップサイクルな製品ですが、あくまで“海と人をつなぐ”コミニュケーションツール。毎日の暮らしの中で使うことで、海を感じて欲しい。そんな思いが詰まっています。こうした製品を手がけるふたりが思う、サステナブルとは?
「人よりも多くの時間を海で過ごすためか、海の様子だったり天候だったりと環境に変化を感じますよ。ここ20年だけでも、だいぶ違います。沖縄の海だって、子供のころと比べたら断然違う。だからといって自然のためにと、みんなで暮らし方をガラッと大きく変えることは難しい。みんなでなにか自然環境にいいことを、ちょっとずつ変えればいい方向にいくじゃないかな」(伊藝さん)
「〈シーマンメイド〉を持つことで、暮らしの中でいつでも海を意識できる。それが環境に対するちょっといいことをするきっかけになれば、手がける身としてはうれしいですね。実際には、伊藝さんがヨット乗りとしての活動が持続可能、って意味でサステナブルですけど(笑)」(holidayさん)
「そう、セーリングにまつわる仕事以外は楽しくないからしたくない。だから〈シーマンメイド〉は僕が生きていくために必要なこと。自分勝手だけど、僕が楽しめないとハッピーじゃない。逆に僕がハッピーなら、holidayも、家族も、葉山の仲間もハッピーになると思うんです。こうしていろんなコミュニティのハッピーが広がっていけば、誰もとりこぼさない素敵な社会になるのでは、と思っています。SDGsじゃなくて“フェスDGs”。フェスみたいにいろんなブランドや業界が手を取り合って、楽しめるサステナブルを実現できるといいですよね」(伊藝さん)
instagram:
シーマンメイド @seamanmade_jpn
holidayさんのお店「HOLIZONTAL」 @holizontalhym
伊藝徳雄さん @igeinorio http://igei.net
HP: http://we-are-holiday.com/seamanmade
INFORMATION
Photo: 鈴木規仁
Edit&Text:八木悠太