FASHION
2021.06.11 FRI
A GUIDE TO CIRCULAR ECONOMY
#01
サステナブルなファッションとは?
「サステナブル」という言葉が注目されるようになり「サステナブルファッション」という言葉もよく聞くようになりました。しかし、そもそも「サステナビリティ」とはどういった意味なのか、そしてなぜファッションにサステナビリティが必要とされているのか、実はあまり知られていないのではないでしょうか。
そこで今回は、O0uを発足した株式会社アドアーリンクの親会社である、 株式会社アダストリアの経営企画室でCSR(企業の社会的責任)/サステナビリティを担当する藤本朱美に、その意味に始まり、サステナブルファッションが必要とされる背景や、ファッション業界における取り組みなどについて語ってもらいます。
「サステナビリティ」は今や世界のスタンダード
——サステナビリティという言葉を、最近よく耳にするようになりました。この言葉のファッションにおける本来の意味はなんでしょう?
サステナブルには「持続可能な」という意味があります。サステナビリティ(持続可能性)という概念は、1980年代から既に登場していましたが、さまざまな業界や一般的に 注目されるようになったのはここ数年のこと。
現在、ファッション業界でも、商品の生産や流通において、自然環境や社会に配慮する取り組みが重視されています。アダストリアでも、「サステナブルファッション」=「持続可能なファッション」とは何か、視野を広げて考えながら、さまざまな活動を展開しているところなんです。
求められる、ファッション業界の意識改革
——ではなぜいま、サステナビリティへの意識がファッション業界に必要とされているのか教えていただけますか?
洋服は、農作物であるコットンや、石油由来のポリエステル、羊由来のウールなど、あらゆる資源を原料にして作られていますよね。商品の生産は資源の消費とイコールであり、そもそも環境に負荷をかけることを前提に成り立っているんです。しかし、環境への配慮が欠けたままでは、いずれ資源が尽きて、商品の生産が難しくなってしまいます。また、気候変動がこのまま進むと、農作物であるコットンの調達がままならなかったり、そもそも私たちは事業を存続させることすら危うくなる可能性もあります。
このような状況を改善するため、2019年の主要7ヵ国首脳会議にて、ファッション業界における環境負担減を目的とする「ファッション・パクト(*1)」が発表されました。
ファッション・パクト以前にも、業界の環境配慮を促すグローバル指標は多数ありましたし、こうしたグローバル社会の後押しは国内のファッション産業のサステナビリティを追求するきっかけになっていると思います。また、グローバル化が進んだことで、消費者の方も社会課題を知るきっかけが増えたと感じています。社会課題が知られることは、その要因を是正させようという動きに発展しますので、こうしたことも背景にあるのではないかと思います。
——これまでファッション業界が抱えていた環境問題や社会問題には、どのようなものがあるのでしょうか。
大きくは3つの問題があげられるかと思います。
まず一つ目が、輸送によるCO₂の排出問題です。日本のアパレル産業の98%は、国外からの生産・輸入に頼っています。そのため、国内に輸入する際や、全国の各店舗に届ける際には、CO₂を排出することになります。また、流行がある業界なので、鮮度良く商品を輸入しようとすると生産国から飛行機で運ぶこともあります。飛行機は早く運ぶことができますが、船で運ぶよりもずっと環境負荷が高いので、そうしたことも影響してきます。
二つ目の問題は、農薬の使用による農地の衰えです。洋服に使われるコットンの多くは、枯れ葉剤や殺虫剤などの農薬を使って生産されています。しかし、農薬をたくさん使うと、農地がやせ衰えてしまい、土そのものが生産に適さなくなってしまうんです。また、農薬を使ってコットンを生産すると、生産者も農薬に直接触れることになり、ガンや皮膚病の発生率が高くなります。
そして三つ目の問題は、児童労働です。コットンは苗の高さが低く、収穫するには腰をかがめなければなりません。大人にとっては重労働ですが、子どもなら、それほど体に負担をかけずに収穫できます。そのため、貧しい国では、児童労働の温床になることも……。
農薬によって土地がやせ衰え、生産率を上げるためさらに農薬を使い、膨らむ農薬コストの代償として子どもたちを働せる……。そのように、悪循環が続く農業は、持続可能とはいえません。
*1 「気候変動に対する取り組み」「生物多様性」「資源効率」という3つの指標で、企業がどのくらい努力できるかを加盟企業で話し合い、共通目標を立てて行動するという取り組み
ファッションブランドにできることってなに?
——ファッション業界で行われているサステナブルな取り組みについて、具体的に教えてください。
サステナビリティは日本国内よりも海外の方が進んでいます。ファッション業界も例外ではなく、グローバルな舞台では共通目標を持つイニシアチブや共通のツールを使って環境負荷を可視化する取り組みが始まっています。
「ヒグ・インデックス」は、アパレルの世界的な業界団体であるサステナブル・アパレル連合(SAC)が2012年に公開した、環境・社会負荷の測定ツールです。商品生産から消費者に届くまでのライフサイクルにおける、環境負荷値や社会的影響値を可視化することができます。
「ファッション業界気候行動憲章」は、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局が推進するイニシアチブです。パリ協定(*2)の長期目標を達成するための共通指標を持ち、ファッション業界でできることを加盟企業で話し合ったり、取り組みを共有し合ったりして、環境負荷値を下げていくとしています。
そのほか、個社レベルの取り組みとしては、素材を環境負荷の少ないものに切り替えたり、動物性の素材の使用を制限したり、加工法を見直すことが挙げられます。また、輸送時に、使用エネルギー量やCO₂排出量が飛行機より少ない船を選ぶ企業も増えていますね。
——なるほど。アダストリア社内で行われているサステナブルな活動にはどんなことがありますか?
とくに力を入れているのが、サステナブルな素材を使用するということ、そして、リサイクルへの取り組みです。
素材の切り替えという点で、最も注力しているのが、サステナブルコットンへの切り替えです。ただし、ファッション業界では、どのようなコットンをサステナブルコットンと呼ぶか、これといったひとつの明確な基準や定義が定まっていません。アダストリアでは、生産時に農薬や化学肥料、水使用量の削減努力をしていることや、土壌の保全や生態系に配慮していること、生産者の労働環境に配慮していること、といった独自の定義を設けて、それらに合致するサステナブルコットンへの切り替えを進めています。
またリサイクル活動では、一部店舗に衣料品回収ボックスを置き、当社以外のブランドの洋服もすべて回収しています。回収した洋服は、キッズローブという子ども服のお下がりシェアサービスを通じて活用してもらったり、日本環境設計株式会社という、服からリサイクルポリエステルの原料を作る再生技術を持つ企業に洋服をお渡しして、リサイクルしています。また、ダウン(羽毛)製品は一般社団法人 Green Down Projectによってきれいに洗浄してもらい、リサイクルダウンの原料にしてもらっています。
*2 第21回気候変動枠組条約締約国会議が開催されたフランスのパリにて2015年12月12日に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定
世界には参考になる企業がたくさん
——日頃から他企業のサステナブルな取り組みに関心を持っている 藤本さんですが、今、とくに関心を持っている企業・ブランドのサステナブルな取り組みを教えてください。
海外のブランドは、やはりサステナブルな視点が進んでいると感じています。中でもこの3つのブランドは学ぶことも多いです。
まずご紹介するのは、日本を代表するスポーツブランド、株式会社アシックスです。アシックスやオニツカタイガーなどのスニーカーを愛用する方も多いのではないでしょうか。リサイクルの基本は、分解して素材ごとに分類することですが、ゴムやポリエステル、レーヨン、金属など、異素材を組み合わせて作られる靴は、リサイクルしにくいというのが、業界の共通認識でした。アシックスでは、環境負荷を削減するために、不要になった靴や衣類を回収して、それをリサイクルする取り組みにチャレンジしています。
次に、サステナブルファッションの先駆けといわれるエバーレーン。2011年に誕生したサンフランシスコ発のSPA(*3)オンラインブランドです。素材の生成過程や、社会とのつながりを、生産体制をわかりやすく可視化して、店舗やウェブ上で展開。不透明になりがちなアパレル分野の就労環境や生産背景などを徹底的に透明化し、おしゃれに発信しようという姿勢が、消費者からの好感を集めています。
profile:
藤本朱美
株式会社アダストリア 経営企画室CSR/サステナビリティ担当。グループ全体のCSRやサステナビリティに関する企画立案・運営のほか、社内外への発信を担っている。素材使用の是非や、素材の訴求方法、コラボレーション先の選定など、各ブランドから相談を受けることも多い。
INFORMATION
袖にたっぷりギャザーが入ったプルオーバーブラウス ¥8,900
リサイクルポリエステルのオックス素材を使用したジレ ¥12,900
Text :佐藤由衣 Photo :有本真大
Illustration :小鈴キリカ