FASHION
2021.07.16 FRI
A GUIDE TO CIRCULAR ECONOMY
#02
エシカルファッションとは?
ファッション業界をはじめ、さまざまなシーンでよく聞くようになった「エシカル」という言葉。「エシカル消費」「エシカルファッション」など、ほかの言葉と組み合わせて使われることもありますが、そもそもエシカルとはどういった意味なのか、なぜ注目されているのかを理解しきれていない人も少なくないと思います。
ファッションにエシカルが必要とされている理由とは? 業界で行われている具体的な取り組みは? O0uを発足した株式会社アドアーリンクの親会社である、株式会社アダストリアの経営企画室でCSR(企業の社会的責任)/サステナビリティを担当する藤本朱美に語ってもらいます。
エシカルとは「思いやりを持って行動すること」
――最近、エシカルという言葉を耳にすることが多くなりました。この言葉の本来の意味を教えてください。
エシカルとは直訳すると「倫理的な」という意味を持つ言葉ですが、分かりやすく言うと「環境や社会、人に配慮して行動する」ことです。「エシカルファッション」という言葉もありますが、これは、素材の選定から販売までのプロセスで、人や環境に配慮することを指します。
アダストリアでは、エシカルとサステナビリティを大きな枠組みで捉え、環境にも社会にも人にも配慮をして、持続可能なあり方を目指していこうといった文脈で使っています。
――エシカルと「サステナビリティ」の違いはなんでしょう?
エシカルとは、“環境や社会、人に対して、思いやりを持って行動すること”。サステナビリティとは、“今の環境や暮らしをより良い形で継続させること”です。エシカルな行動があってこそ、サステナビリティにつながるんですね。それぞれ分断された概念ではなく、互いに影響し合う関係であると考えると、エシカルやサステナビリティの熱の高まりを理解しやすいのかなと思います。
エシカルファッションは「人権問題の解決」にも大きくつながる
――なぜ今、エシカルがファッション業界に必要とされているのでしょうか?
ファッション業界だけでなく、あらゆる業界がエシカルの必要性を感じるようになった大きなきっかけは、2013年にバングラデシュで起きた「ラナ・プラザ崩落事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」だと思います。安全基準を満たしていないビルが崩壊したことで、1,100人以上が亡くなり、約2,500人が負傷した痛ましい事故でした。
当時、ラナ・プラザには多くの縫製工場が入っていて、そこで働いていたのは、女性や子どもなど、社会的に弱い立場にあるような人々でした。委託元の企業が無理な納期を言い渡し、安い賃金・劣悪な環境下で、長時間労働を強いられる状況が生じていたんです。
それらの縫製工場では、主に先進国で販売されるファストファッションブランドの洋服が生産されていました。事故のニュースが全世界に発信されたことで、安い洋服の裏にある過酷な労働環境が明るみに。ここで生産されていたファストファッションブランドの企業たちは、直接の雇用主ではなかったものの、間接的にこの事故に関与したということで、世界から大きなバッシングを受けることになりました。
――事故の後、ファッション業界ではどのような動きがあったのでしょうか?
20ヵ国220社以上が労働環境の安全性に関する協定(※1)に署名したり、アメリカの企業を中心に、バングラデシュの労働環境を監視するアライアンス(※2)に提携する動きがありました。また、商品の生産背景を確認する体制を整えるなど、各企業がそれまでのやり方を見直すようになりましたね。
これをきっかけに、生産者の生活や教育のレベルが十分に担保される価格で取引をすることによって、途上国の生活改善と自立を目指す「フェアトレード」もさらに重要視されるようになりました。
フェアトレード認証ラベルの対象となる商品も、以前に比べてグッと増えました。
――エシカルファッションが広がることで、人や社会や環境のどのような問題が解決されると思いますか?
ファッション業界でよくいわれるのは、「人権問題の解決」ですね。商品を安く提供するということは、生産費もそれだけ安くなるということ。工場の収入が乏しいと、そこで働く工員に十分な賃金が払われませんし、労働環境を整えるための設備投資もできませんよね。このように、モノを安く調達しようとすると、「人」にしわ寄せがいってしまうんです。
また、コットンなど原料を生産する農場で健康を害するような肥料や農薬を使ったり、生地の加工工場で人体に影響のある化学物質を防御なしに使ったりすることも、問題視されてきました。エシカルファッションが広がることで、そういった人権問題が大きく解決すると思います。
※1 バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全性に関する協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh)
※2 バングラデシュ労働者の安全のための提携(Alliance for Bangladesh Worker Safety)
エシカルファッションを広めるために企業ができること
――エシカルファッションを広めるために、企業はどのようなアクションをする必要があると思いますか?
企業がまずすべきなのは、「自社で提供する商品や材料が、どこで・どのようにつくられているかを把握すること」です。その上で、何か改善すべき問題がある場合には、ビジネスパートナーとして工場に寄り添い、コミュニケーションをしっかり取っていく。アダストリアでも、CSR調達(社会的責任の観点から健全な調達を行うこと)の仕組みを整え、それをきちんと運用していくことを大切にしています。
そのような基礎があれば、環境に配慮した商品を提供しよう、社会的立場の弱い方の雇用につながるような商品を企画しよう、というように、さまざまな取り組みを重ねていけると思います。また、CSR調達は私たちのような小売りだけではその仕組みは確立できず、取引先の協力が必要不可欠です。倫理観を持って商品を調達していく意思があると、取引先や社会に向けて発信していくことも企業側では必要だと思いますね。
――現在アダストリアが行っている活動や、過去に行ってきた活動があれば教えてください。
2011年の東日本大震災以降、東北での雇用を生み出すプロジェクトに参加し続けています。例えば、津波により稲作等が困難になった農地でコットンを育て、そのコットンを商品に使う「東北コットンプロジェクト」。当社の従業員も、ボランティアでコットンの栽培活動に参加しています。また、東北の女性の雇用を増やすために、現地企業に仕事を依頼する取り組みも行っています。
O0uは、そんなアダストリアグループ内でも、特にエシカルやサステナビリティに対して積極的に取り組んでいるブランドなんです。近年は、モノの背景に対する意識が高まり、「ファッションにもエシカルなアイテムを取り入れたい」というお客さまが徐々に増えてきています。しかしその一方、「何をどう選べば良いか分からない」というお客さまが多いのも現状。また、全商品がエシカルな背景からつくられているブランドも、まだ多くありません。
そんな中、O0uは扱っているすべての商品に対して、「エシカルな背景を持っている」と、自信を持って言うことができる。「エシカルなアイテムを購入したいけど、どれを選べばいいかよく分からない……」というエシカル初心者のお客さまでも、O0uのものなら、どれでも安心して手に取っていただけます。
エシカルファッションを先導する3つの国内企業
――藤本さんは、日頃からさまざまなエシカルブランドやその取り組みをチェックされているそうですが、今、特に関心を持っている企業・ブランドのエシカルな取り組みを教えてください。
アダストリアのように全国展開している企業から、地域に根ざした企業や店舗まで、面白い取り組みをしている企業が増えていると感じます。今回は、エシカルな動きを先導する、3つの企業をご紹介しますね。
1つ目は、エシカルファッションのパイオニアともいえるフェアトレードカンパニー株式会社です。同社が運営する「ピープルツリー」は、途上国の生産パートナーと組み、地球環境に優しくサステナブルなファッションを約30年にわたってつくり続けているフェアトレード専門ブランド。
オーガニックコットンの使用や、CO₂の排出量が少ない手仕事を大切にした生産、人体や環境に優しい染色といった取り組みだけでなく、デザインにトレンドや流行を取り入れ、きちんとお客さまがかわいい!身に着けたい!と思うものをつくるバランス感覚も優れていると感じます。
2つ目は、フェムテックブランド「Nagi」を販売する株式会社BLAST。Nagiの吸水ショーツは、ナプキン6枚分の吸水量があり、女性がより心地良く自分らしく過ごせるような構造になっています。繰り返し洗って何度でも使用できるエコフレンドリーな商品を扱っている点や、「生理のときも快適に過ごす権利が、経済的な事情でおびやかされてはならない」と、学生に対して割引サービスを行っている点などから、商品を使用したり、購入したりする過程でも、環境や人にとってエシカルな企業といえますね。
3つ目は、コーヒーショップ「オニバスコーヒー」を運営する株式会社ONIBUS。ファッション系の企業ではありませんが、「コーヒーを通して人と人とをつなぐ」というテーマのもと、社会から環境まで様々な角度でエシカルな取り組みをされており、とても参考になります。お店で扱うコーヒー豆の生産地にはできるだけ訪問し、どんな方法や環境で生産されているのかを、しっかりと確認したうえで調達されているそう。また、店舗づくりにおいても廃材を用いたり、生分解性の原料を資材に使用するなど、環境に配慮した設計をされています。家の近くに店舗があるのでよく行くのですが、オニバスコーヒーの存在が、その地域のコミュニティ形成に大きく貢献していると思うほど、人やコミュニティとのつながりをとても大切にされています。
ものの「背景」を知ることから始めよう
――私たち個々人ができるエシカルな取り組みとして、どのようなものが挙げられるでしょうか?
「この商品は誰がつくっているんだろう?」「どこで調達された原料なんだろう?」など、身につけるものと社会とのつながりを知り、考えることが、エシカル実践の第一歩だと思います。フェアトレード認証ラベルや、リサイクルに関する国際認証である「GRS」、動物福祉に基づいたウールの調達を認証する「RWS」など、認証ラベルを取得している商品を購入するのもいいでしょう。
O0uの各商品のページには「SUSTAINABILITY」というボタンが設けられていて、クリックすると、CO₂排出量や水使用量など、環境負荷やその削減効果について確認することができます。このような情報を知ろうとすることも、エシカルな取り組みといえるのではないでしょうか。
――一人ひとりの意識が高まることで、ファッション業界にどのような発展や進化がもたらされると考えますか?
大量生産・大量消費という安いものをたくさん買うスタイルから、自分が本当に愛せるものを選んで長く使うスタイルが支持されていくのではないでしょうか。
アダストリアでは「Play fashion!(ファッションを楽しむ)」をミッションに掲げていますが、エシカルの追求は、ファッションを楽しみ続けられる社会をつくることにつながると考えています。私たちがファッションを楽しむ裏で、誰かが悲しんだり、犠牲になったりすることがないように、環境や社会、人に配慮した取り組みを続けていきたいと思っていますね。
Profile :
藤本朱美
株式会社アダストリア 経営企画室CSR/サステナビリティ担当。グループ全体のCSRやサステナビリティに関する企画立案・運営のほか、社内外への発信を担っている。素材使用の是非や、素材の訴求方法、コラボレーション先の選定など、各ブランドから相談を受けることも多い。