INSPIRATIONS
2021.05.25 TUE
ECO-FRIENDLY PIONEERS
#04
花を捨てない世界へ
イベント会場やホテルのロビーを彩る花を見て、「きれいだな」と気持ちが高揚したことはありませんか? では、私たちの目を楽しませてくれた花は、その後どこへ行くのでしょうか? 実は、役目を終えた花たちは、まだ美しいうちに廃棄されます。それどころか、出荷基準を満たさないからと、役目を与えられるまでもなく捨てられてしまう花もあるのです。
そのような廃棄される予定の花を「ロスフラワー」と名付け、ドライフラワーにして活用するなど“新たな命を吹き込む”事業を展開している、株式会社RIN。今回は、RINのフラワーサイクルアンバサダーとして活躍する宮川南奈さんに、RINの取り組みや活動、そこに抱く想いについてお伺いしました。
美しいまま捨てられていく花がある、という現状
市場に出回る花の規格は、私たち一般消費者が想像する以上にシビアです。草丈や花首の長さが基準を満たしているか、茎が曲がっていないか、1つの茎につぼみがいくつ付いているか……。規格外と判断され、表に出ることなくそのまま廃棄されてしまう花は、一般的に、出荷数のおよそ3〜4割ともいわれてます。
また、結婚式などのイベントで装飾に使われた花や、母の日などのお祝いごとで売れ残った花たちも、短い役目を終えると、まだ十分美しいにも限らず、その多くが捨てられてしまうのです。
「使い途のない花が捨てられてしまっている。そういった現状になかなか光が当たっていません。花はドライフラワーにすることで長く楽しめるもの。RINではあえて、規格外の花や売れ残った花、役目を終えた花などを買い取り、装飾用のドライフラワーを制作しています」
代表である河島春佳さんが生花店で短期アルバイトをしていた際、廃棄となる花の多さにショックを受けたことを機にスタートした、株式会社RIN。「花のロスを減らし、花のある生活を文化にする」をミッションに掲げ、さまざまな活動を展開しています。
例えば、ロスフラワーを用いて商業施設のディスプレイ装飾を行ったり、オブジェに使用したロスフラワーを展示最終日に花束にしてお客さまへプレゼントしたりするなど、花の持つ美しさを再定義し、新たな価値や可能性を、そのストーリーと共に伝える「ブランディング事業」。
2021年3月からは、東京・赤坂にあるホテル「MIMARU東京 赤坂」とタイアップして、ホテルでの滞在時間にエシカルな暮らしを学んだり、実際に体験したりすることのできる“Ethical Stay(エシカルステイ)”を実施。自然に優しいアメニティを用意するほか、エシカルステイのための3つの部屋をロスフラワーを用いて装飾することで、短い期間の中で環境や自身との向き合い方を意識できるような空間を提供しています。
また、もう一つの主軸である「コミュニティ事業」では、全国に約30名いる「フラワーサイクル*アンバサダー」と呼ばれる仲間とともに、「花のある生活のすばらしさ」を発信。ロスフラワーを使ったブーケやアクセサリーなどをつくり販売したり、ワークショップを行ったりしています。
「私たちフラワーサイクル*アンバサダーは、ロスフラワーを知ったきっかけも、その活用の仕方も、それぞれ異なります。中には、俳優として活動をしながら、ロスフラワーを使った舞台装飾を行っているメンバーもいたり。みんな、各々の専門性を生かして、自分にできる活動で、花のロスを減らし、花のある生活を文化にすることを伝えているんです」
“何でもない日”に花を買う人が増えるといい
自身の結婚式では、会場の装飾やヘッドパーツ、リングピローまで、ロスフラワーをふんだんに使用したという宮川さん。式の装飾は、特別に河島代表が担当し、「装飾に使った花は、本来であれば規格外という理由で廃棄されてしまう予定だった」と、ゲストに向けて説明をしたそうです。
「テーブル装飾に使用した花は、プチギフトとしてゲストにお渡ししました。花を持ち帰った友人が、部屋に飾った様子を写真に撮って送ってくれましたね。そうやって、2度、3度楽しめるのが、ドライフラワーならではの魅力だと思っています」
RINの活動の根底にあるのは、単に、ロスフラワーが“安いから”“かわいそうだから”といったネガティブな気持ちではなく、「ロスフラワーならではの魅力を生かした作品をつくりたい」「花を楽しむ人が増えてほしい」というポジティブな想い。例えば、花を1輪でも部屋に飾ったり、何でもない日に花を買ったりするなど、「花が日常になることによって、花の廃棄も自然と減るはず」と、宮川さんは言います。
「花が日常の一部になって、購入する人が増えれば売れ残りは減るし、『どうすれば長く楽しめるのか?』なども自ずと考えるようになりますよね。そうすれば、自然と廃棄も減っていくはず。でも、自分のために花を買う人って、日本ではまだまだ少ないんです。アンバサダーのミーティングでよく話題に上るのは、お花屋さんに入ることのハードルの高さ。特に若い世代にとっては、お花屋さん=特別なお祝い用の花束などを買う場所、といったイメージが強いと思います。花を身近に感じてもらえるように、1輪からでも買えるということが、もっと伝わるといいなと思いますね」
廃棄されてしまう花が、“自然と”減る世の中を目指して
2020年春、RINは花農家と消費者の架け橋として開設したオンラインショップ「Flower cycle marche(フラワーサイクルマルシェ)」もスタート。主に廃棄される予定だった規格外の花を、農家から直接購入者の元に届けます。
「個人の力は小さいと思われがちですが、RINの活動に関わっていると、そうでもないぞ、と希望を持てます。2020年の春、私のSNSを見て、花農家が大量の花を廃棄せざるを得ない現状にあることを知り、Flower cycle marcheで花を買ってくれた友人もたくさんいましたし、『母の日にここで購入して花を送ったよ!』とメッセージをくれた友人もいました。私の活動を見ていた夫が、『記念日だから』と、花をプレゼントしてくれる機会も増えましたね」
花農家は、通常は市場に花を出荷して終わり。その花がどこへ卸されるのか、実はよく知らないといいます。オンラインで直接花を販売できる、このFlower cycle marcheという仕組みを通じて、購入者から「こんなにきれいな花は初めてです」と手紙が届き、うれしかったと喜びを伝えてくれる農家の方も多くいたそうです。
「規格外の花は廃棄されてしまう。そういった現状が見えにくい要因のひとつは、生産者と消費者の距離が遠いからではないでしょうか。ロスフラワーを増やさないためにも、花農家さんやお花屋さんの顔が、もっと見えるようになればいいと思いますね」
2021年の春から、保育園や学童を運営しているNPOで仕事を始めた宮川さん。そのNPOでは環境教育に力を入れており、地球や衣服などをテーマに、子どもにプラスチック問題やアパレル産業の背景などを知ってもらう機会を提供しているのだそう。そのような学びの中に、今後は花を取り入れることも考えているといいます。
「これは私個人の考えですが、幼少期の“当たり前”って、大人になってからも“当たり前”として生活に根付いていることが多いと思うんです。フラワーサイクル*アンバサダーとして、多くの子どもたち、そして、多くの人たちに、花が日常にある生活や、花を通じて四季を感じる楽しみを伝えていくことで、廃棄されてしまう花の問題に目が向けられ、花のロスが自然と減る世の中になっていってほしいですね」
Profile :
株式会社RIN
「花のロスを減らし花のある生活を文化にする」をミッションに、ロスフラワーを用いたブランディング事業や、コミュニティ運営を行う。
■ RIN ~LOSS FLOWER~ https://lossflower.com
■ Flower cycle marche https://lossflower.theshop.jp
2021年3月から、東京・赤坂にあるホテル「MIMARU東京 赤坂」とのタイアップで、“Ethical Stay(エシカルステイ)”を実施中。https://lossflower.com/ethical-stay