MATERIALS
2021.05.06.FRI
MATERIAL A to Z
#01
再生ポリエステルって何ですか?
■O0u(オー・ゼロ・ユー)について
2021年3月31日にデビューを果たした、ライフスタイルブランド。サステナブルファブリックにこだわりながら、地球環境へ配慮した製法を見える化し、上質で長く愛用してもらえる商品を企画開発。
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■Me & THE EARTHについて
O0uのオウンドメディアとして、ブランドのフィロソフィーのもと、地球環境に配慮した様々な取り組みや、サステナブルでユニークなライフスタイルを独自取材し、特集を連載していきます。
最近、洋服のタグに表示マークをよく見かけるようになった「再生ポリエステル」。エコ素材なイメージはあるけれど、それ以上のことと言われると…?本当にちゃんと知ってる人は、世の中でもきっと一握りなのではないでしょうか。
世の中がどんどん環境に配慮したサステナブルな暮らしにシフトし、消費者の選択が問われるようになる中で、毎日着る衣服の素材を知り、自分にあったものを選んでいくのはとても重要。私たちの身近にあるけれど知らない素材の世界を知るべく、この道40年、素材を知り尽くすカリスマ・カベ先生にお話を聞きました。
PETボトルが服になる!?意外と知らない「再生ポリエステル」のこと
――最近、色々なところで耳にする「再生ポリエステル」ですが、実際のところ、どんな素材なんでしょうか?
「再生ポリエステル」は、飲み終わった空のペットボトルなどを溶かしてつくる繊維のことです。ポリエステルの原料は、ペットボトル本体の素材と同じ、「PET」というプラスチック。これを溶かして、細いノズルから出して固めると繊維になります。通常のポリエステル同様に、溶かした「PET」にさまざまな成分を練り込むと、繊維に特別な機能を持たせることもできます。これは非常に多くのブランドで活用されていますね。例えば、吸水速乾、形状記憶、ストレッチ効果などはそうやって機能性が追加されたものなんです。
捨てられているゴミにさまざまな機能をつけて生まれ変わらせることができる再生ポリエステル。なぜ透明のペットボトルが重点的にリサイクル回収されているか?それは、ペットボトルが無色であるためで新たに染色加工がしやすく、純度が極めて高いことが理由です。不純物が入っていないことにより、石油からつくるポリエステルと品質的にほとんど差がない繊維をつくることが可能だから。再生ポリエステルの原料として適しているんですね。
ちなみに、ペットボトルのフタは「PET」ではなく、「PP(ポリプロピレン)」という別のプラスチックなので、再生ポリエステルに生まれ変わらせることはできません。だから分別は大事ですよ。少し面倒ですが、ちゃんとラベルと蓋を取ってから捨ててくださいね。
人造繊維より天然繊維のほうが環境負荷が低いとは限らない
――そもそもポリエステルってどんな素材なのでしょうか?化学繊維というのはわかるのですが。
繊維の基本的な分類についてお話しましょうね。繊維は、大きく「天然繊維」と「化学繊維(人造繊維)」の二つに分けられます。「天然繊維」は、綿や麻など植物を原料にしたもの、絹やウールなど羊毛や蚕を原料にしたものなどのこと。その名の通り、自然にあるものから作られています。一方、「化学繊維(人造繊維)」は、植物由来の天然成分からつくるレーヨンや、石油由来の原料でつくるポリエステル、ナイロンなどの人の手によって科学的に作られた繊維です。
人造繊維の中でも、レーヨンは再生繊維というカテゴリに属します。これはセルロースという植物性のパルプ(紙の原料)などを人工的に溶かして繊維に再生させたもの。植物由来なので生分解性を持っています。「再生」という言葉を使っているけれど、リサイクルという意味ではないのは意外と知られていません。なんとなくレーヨンとポリエステルは似た素材のイメージがありますが、レーヨンは土に還るエコ素材なんですよ。エコ、再生、リサイクル…同じように使われてしまっていますが、それぞれの意味は大きく違うのをぜひ知っておいてほしいですね。
そして地球環境への影響を考えたら、天然繊維を使ったものの方が良いと思われがちですが、一概にそうは言えません。例えば綿は製造過程で大量の水を使用するため、限りある資源を有効に使っているかという点で長年、問題視されてきました。最近ではようやく水の使用量や農薬を削減した栽培方法やオーガニック農法が主流となってきています。どれを選べば解決!というわけではないのが難しいところです。
一つ確実に言えるのは、人の手で作られた素材の中で土に帰らないのは、「合成繊維」グループのみ、ということなんです。
加工しやすく、お手入れも楽。ファッションの可能性を拡げたポリエステル
――ポリエステルが広く世界で使われ、環境問題として課題となっている理由はなんなのでしょう?
ポリエステルは現在世界でつくられているすべての繊維のなかで60%以上、合成繊維のなかだけで見ると80%と、最も生産量の多い繊維です。世界で一番使われているこの素材の最大のデメリットは、前章でも言及した通りで、微生物の働きによって分解される「生分解性」がないこと。土の中に100年埋めておいても土に返らないと言われています。また、原料がプラスチックなので、焼却処分をする際も、有害な物質を発生させる懸念があります。
そんなデメリットを持つポリエステルが世界でこんなにたくさん作られている理由?それは衣服にしたときのメリットがとても多いから。耐久性が高く、水にも強いので洗濯を重ねてもダメージが起きにくい。しわにもなりにくいので、お手入れが簡単です。それに、熱を加えると柔らかくなって形を変えやすく、冷めると硬くなる「熱可塑性」と呼ばれる性質があるので、加工段階でプリーツ処理をすると、そのままの形で保たれてプリーツが崩れません。
ファッション性の高いものから、スポーツ、アウトドア、ユニフォームなど様々な素材に適した加工がしやすい性質を持っています。このような加工や手入れのしやすさが重宝され、最も使用される繊維になったのです。製造コストも安いため、価格を抑えることが可能になったのも普及の要因ですね。ポリエステルのおかげで、暮らしが便利になってきた側面も大いにあるんですよ。
ゴミを生まないために大切なのは、長く使うことと、再生して繰り返し使うこと
――サステナブルという側面で見た時に、私たちは、これから何を選んでいったらいいんでしょう?具体的にできるアクションはありますか?
私たちにできる一番シンプルなアクションは、一つのものを長く愛用することです。でも、人間は一度覚えた便利さや豊かさを手放すことはとても難しい。もはやイージーケアのない暮らしには戻れないでしょう?それにずっと同じ洋服で過ごすことも、現代にはそぐわない。であれば、私たちにできることは、新たなゴミを生まないために、今あるものを再度加工し直して、繰り返し使うこと。土に帰らない素材を捨てないこと。それが再生ポリエステルという素材の意義ですね。
再生ポリエステルは、ペットボトルを回収し、分類し、溶かしてつくるので、石油から新しい原料を生み出すよりも手間もコストもかかりますが、それを惜しまずにやっていくことが、便利や豊かさを享受する現代人の責任だと思います。
江戸時代、日本は町に全然ゴミがなかったと言いますよ。それは、もったいない精神で、いろんなものを繰り返し使ったり、一つのものを余すところなく使ったりしていたから。ものを捨てなかったんですよね。今のサステナブルの流れは、そこに戻りつつある。原点回帰が始まっているんだなぁと思いますね。
そう考えると、日本人はサステナブルな暮らしをするのが上手いんじゃないか、って僕は希望を持っているんです。だって江戸時代まではできていたことなんだから、今生きている僕たちにだってきっとできるはずですよね。
profile
賀部 哲(カベ サトシ)
O0uマテリアルスーパーバイザー。1955年、東京生まれ。国内のあらゆるアパレルブランド、メーカーなどから依頼を受け、ファブリック素材の開発や、テキスタイルデザイン、素材のクオリティ管理や仕入れ管理などの業務を行っている。デザイナーから絶大な信頼を受ける素材の達人。