MATERIAL
2021.09.10 FRI
MATERIAL A to Z
#05
ウールから学ぶ、サステナブル。
知っているようで詳しくは知らない、ファッションの素材について学ぶ連載「MATERIAL A to Z」。第5回目は前回に引き続き、ウール=羊毛についてのお話しです。8000年も前から愛用されているウールですが、実はとてもサステナブルな素材なんだとか。またウール業界が取り組む、さらなるサステナブルな事柄とは?40年にわたり繊維業界で活躍し、数々の大手ブランドを裏側から支えてきたO0uマテリアルスーパーバイザー・カベ先生にお聞きしました。
羊からの“おすそ分け”。だから負荷も少なく。
——前回に引き続き、ウールについてお聞きします。O0uでもこの秋冬、ウールを使ったアイテムをラインナップしています。例えば「再生ウール」のような、サステナブルな素材はあるのでしょうか?
そもそもウール自体がとてもサステナブルな素材なんですよ。まず、育てるのにそこまで手間がかからない。ちょっと乱暴な言い方ですが、牧草でさえあれば勝手に育ってくれて採れますからね。それに1頭から刈り取るのは年に1度。生きている限り何度も採れるのに、羊のいのちに関わらず、痛めつけることもありません。みなさんの切った髪が素材になるようなものですよ。
——ちょっと髪の毛で想像すると気味が悪いですが、たしかに地球に優しい(笑)。実際、ウールを採ることは羊たちに負担にならないのでしょうか。
実はひとつ、問題とされていることがあるのです。それが「ミュールシング」というもの。
メリノ種は羊毛を採取することに特化して改良された品種です。なぜたくさんの羊毛が取れるかというと、皮膚表面が広く毛の量が多いから。その分シワが深く、股間まわりに汚れが溜まりやすく、ついには虫が湧いてしまうというデメリットがあるのです。虫が皮膚や肉を傷め、死に至るケースも。
——痛々しい話ですね。
その対策として行われているのが「ミュールシング」。子羊の股間周りの皮膚を剥ぎ取ってしまうのです。それも麻酔なしに。これが動物愛護の立場から批判が高まり、現在ではミュールシングされた羊毛を使用しないことを宣言している企業も多くなりました。英国やニュージランドでは禁止されています。ただ虫が湧きやすいのは事実なうえに、ミュールシングを行わない代わりに薬剤で処理されることも。痛し痒しで、賛否の意見が分かれるのも現状です。この実態を知った上で、どんな素材を使っているブランドを選ぶか重要なのではないでしょうか。
リサイクルのしやすさもメリット。
——環境に対してはどんな特性がありますか?
まず言えるのが、生分解性素材だということ。羊毛は主にタンパク質でできているので、もし廃棄されても、循環の道を進み、きちんと土に還ってくれる点は、サステナブル素材として評価できるポイントですね。
また強いて言うならば、刈り取った羊毛をウール素材に仕上げるのに、大量の水が必要なのが難点です。脱脂や染色といった工程で、どうしても水を使わざるを得ないので。そこはウール素材のメーカーの努力が試されるところですね。
さらにはウールという素材は非常に弾力性に富んでいることから、耐久力の強い素材です。きちんとケアすれば、長年愛用できることも歴史が証明してくれています。英国では、親のジャケットやブランケットといったウール製品を子が受け継ぐ、という文化もあるほど。万が一、穴が開いてしまっても、簡単に補修できるという点も天然素材ならでは。ひとつのウールアイテムを長く愛用しやすいということも、サステナブルにつながっているのです。
——リサイクル素材はありますか?
ウールを洋服などの製品にするまでの工程で出た「落ちわた」や「裁断くず」を再利用することも多いです。これらは今まで“ごみ”として扱われていましたが、実際には未利用で新品の状態の繊維には変わりありません。そのため服に使いやすいのが特徴ですね。<O0u>でも今季は、「落ちわた」や「裁断くず」を再利用して、コートを生産しましたが、その見た目は本当に美しく、自信を持ってオススメしたい一着です。
さらには回収したウール素材を再利用する動きも、最近では活発です。着古したウール製品を針状の機具によって崩すことで毛羽立たせ、もとの毛状の単繊維に戻す「反毛」という工程を経て、他の繊維素材と混ぜて織物とする「毛七」という素材が、注目を集めているのです。ウール=毛が70%だから、「毛七」。世界三大ウール産地、尾州で盛んに作られる伝統的な素材なんです。
このように、サステナブル素材として完璧な存在ではないですが、注目すべきメリットが多いのがウールの特徴です。前回お話しした、素材の特性と合わせて知っておくことで、今後の洋服選びの基準にしてもらえると嬉しいです。
Profile:
賀部 哲(カベ サトシ)
O0uマテリアルスーパーバイザー。1955年、東京生まれ。国内のあらゆるアパレルブランド、メーカーなどから依頼を受け、ファブリック素材の開発や、テキスタイルデザイン、素材のクオリティ管理や仕入れ管理などの務を行っている。多くのデザイナーから絶大な信頼を受ける素材の達人。
INFORMATION
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illustration:野村彩子
Composition & Text:八木悠太