PEOPLE
2021.04.26 MON.
MY SUSTAINABLE LIFE
#01
モデル・NOMA “地球の一部”
黒く大きな瞳と柔らかなカーリーヘア。そしてクシャッとした笑顔が印象的なモデルNOMA(ノーマ)さん。ファッション&ビューティー雑誌で活躍するモデルというのは一面的な部分にすぎません。その日常を紐解くと、植物を使った自然療法の探求、旅、生き物、自然、宇宙、社会問題、国際情勢など、彼女の興味はあらゆる世界へ向けられています。そんなNOMAさんの尽きない好奇心と、自分らしいライフスタイルを支えるものは? 彼女の瞳の中に映る世界を少しだけのぞいてみました。
自分も自然の一部なんだなと感じるようになって
――グローバルなイメージのあるNOMAさんですが、どのような子供時代を過ごしたのですか?
私、よく驚かれるんですが、佐賀で生まれ育ったんです(笑)。育ったのは本当によくある日本の田舎町、みたいな所。駅前にはびっくりするほど何もない所でしたが、私は大好きでした。東京にきて華やかなお仕事をさせてもらっていますが、今でも心の根っこにあるのは、あの町で育った記憶です。
――なぜ佐賀にお住まいだったのですか?
私は父が日本人で、母がシシリア系アメリカ人。研究者である父の都合で2人はNYから佐賀に来て、まもなく私が生まれました。小学校に入ると母は地元の大学で佐賀に生息するとある昆虫の研究に没頭。気づいたら動物行動生態学の研究者になっていました。
田舎で娯楽もありませんでしたし、ゲームやテレビも禁止だったので、遊び場は周りの自然環境だけ。小学生の頃に、毎日のように弟たちと佐賀の平野や竹藪を探検して回ったり、母の通う大学の研究室に遊びに行ったり。フィールドワークに一緒に連れて行ってもらったりもしました。そうしているうちに、ごく当たり前に虫や動物、植物に興味を持つようになりましたね。
――今のNOMAさんに影響を与えている思い出は?
まずは佐賀の大自然で好きなだけ遊ばせてもらえたことが一番大きかったかな。思い出深いエピソードだと、母がベニツチカメムシという虫について熱心に研究していたので、調査のお手伝いをしたことです。ベニツチカメムシはとても変わっていて、子育てをする虫。母虫が子供に餌を運び続けるんですが、何往復も餌を運び続けるうちに、最後には餌に間違えられて子供に食べられてしまうんです!
それを母から教えてもらった時、なんて残酷なんだろうと思ったのですが、それも自然界の無駄のない摂理のひとつであり、自分もその一部なんだなと感じるようになって。今となっては、長い年月をかけて紡がれた生命の循環と共生のひとすみで私たちも生かされているんだなと感じています。
旅は、幸せの価値観を改めて考える時間
――世界を旅するようになったきっかけはなんだったのでしょう?
ひとりで旅に出ようと思ったのは20歳の時。国籍を選択しないといけなくなったことがきっかけです。それまでは母がアメリカ人ということだけが他の子との違いで、ごく普通の大学生として過ごしていました。それが急に、疑うことのなかったアイデンティティを見直さなければならなくなって。悩み過ぎて、よしインド行こう!と(笑)。
――初めてのインド一人旅のあとは、さまざまな国を訪れていますね。旅からはどんな影響を受けましたか?
サステナブルという視点で思い返すと、特に印象に残っているのは、ネイティブハワイアンの自治区を訪れた時。そこでは、彼らの文化を守っていくために、山や森でハワイ古来種の植物が育てられていて、それら全てがネイティブハワイアン伝統の自然保全システムで山から海まで生態系がつながっていることが意識されているんです。人の生活や文化が、土地や生態系にダイレクトに根ざしているのを感じました。
子供たちとの出会いも思い出深いです。どこの国もそうなんですが、国の貧富に関係なく、子供たちの本当に生き生きとした表情にいつも吸い込まれてしまいます。ブラジルのファベーラやジャマイカのキングストン、南アフリカのヨハネスブルク、治安が悪いと言われがちなエリアでも、子供たちは人一倍元気で驚くような眩い笑顔を見せてくれる経験が多くて、幸せの価値観を改めて考えると同時に子供は未来の希望そのものだと感じさせられました。
自分の選ぶものが、誰かの選択に影響するかもしれない
――東京でモデル活動を始めてみて、何か感じたことはありましたか?
モデルのお仕事をすることで、それまで以上に自分の感覚や体と向き合うことの大切さを感じるようになりました。ある時自然療法の恩師である森田敦子先生に、肌はもうひとつの脳、という言葉を教えてもらって。それ以来スキンケアだけでなく、インナーケアやシーツなど、肌に影響するもの全てを意識して選ぶように。こだわっていたら好奇心がどんどん加速して、この素材はどこからきてるんだろう? どうして肌にいいんだろう? と調べていくようになりました。
――モデルというお仕事は、ファッション業界と切っても切れない関係ですね。
素材についての興味は、モデルとしていかに自分の心身を整えるかを追求する過程で生まれたものでした。無理をするとすぐに体に現れてきますしね。できるだけ心と体にストレスのない状態を目指す中で、やっぱり自分には、自然や植物のある環境は不可欠だなって感じました。そこから本格的にフードレメディや植物の力を使った自然療法である、フィトテラピーやアロマテラピーについても勉強するようになったんです。
――環境問題や植物の力についての発信も積極的に行っています。サステナブルな活動を始めた理由はどんなものでしたか?
子供の頃に環境問題に関するセミナーに連れて行ってもらったり、母が自然農法の野菜を取り寄せていたり。そういったことに触れる機会には恵まれていましたが、モデルという仕事をきっかけにして、オーガニックな物を取り入れることの心地良さ、自然の力の偉大さに改めて気づくことになりました。
そうやって詳しく学ぶうちに、さまざまな環境問題や産業の課題も見えてきて。ある時、子供の頃に動植物に囲まれて感じたことや、国連で働きたくて国際社会について学んだことなどが一つの線でつながったと感じました。もっと本格的な豊かさに繋がる発信をしたい。そう意識するようになったのもあり、自分の言葉で発信することを大切にするようになりました。
伸びやかに暮らすことが、自然に無駄のない生活に繋がる
――具体的にどんなことを意識して暮らしていますか?
自然の摂理を感じて知ることは果てしない冒険! わくわくした気持ちや、楽しみながら観察したり継続できることを、日々積み重ている感じですね。たとえば食用植物を自分で育ててみたり、クリーニングペースト、スキントナーなど、環境に配慮された素材を使って作れるものは自分で作ってみたり。あとは、何かを選ぶ時の選択肢をより環境負荷が低い物にする事を意識してみたりもしています。
日常の中にあることでは、洗濯する際に化学繊維が水道に流れてしまうのを防ぐ洗濯バッグを使うことを取り入れてからは、アウターなどを洗う時に排水の負担が減らせるようになったので、ほっとしました。
あとはコンポスト! 私は元々植物を育てるのが大好きなので、コンポストで生ゴミを堆肥に変えて、植物の土に加えています。自分の家の中で小さな循環が生まれるし、すごく簡単なので、お子さんと一緒に取り組むのもおすすめです。
――7年前に、都内からお引っ越しされたそう。変化はありましたか?
自然が豊かな環境を求めて引っ越したんですが、以前より四季のリズムを楽しみながら丁寧に暮らせるようになって、さらに暮らしが充実したように感じます。お散歩では季節の移ろいをすごく感じられますし、カラスの個体も見分けられるようになったり(笑)。子供の頃の故郷での時間、あの季節の移ろいや自然観察、野遊びを存分に楽しみながら暮らしていた頃に戻った感覚で、思い切って引っ越してよかった! と思っています。
――最後に、今ある暮らしの中で始められるサステナビリティって何でしょう?
循環を意識した生活はいつでも始められるんじゃないかな。昆虫や植物、自然を観察していたら、彼らの生きる姿には大きなヒントがある気がしています。あとは自分が興味のあることをもっと知っていく、自分の心身が心地良いと感じる感性を大切に育むことは、より無駄のない消費の選択肢にも繋がると思います。
例えば、ヨガをしたり筋トレをしたり。どんなことでも良くて、大切なのは自分がのびやかに、機嫌よく心地よく過ごせる工夫をしてみること。そして自然のリズムを感じながら、地球や社会の歴史を紐解いたり知ってゆくことも、無理のないサスティナブルな選択肢やアクションを導く事に繋がると感じています。
Profile:
NOMA(ノーマ)
佐賀県出身のモデル。幼少期より生命や宇宙の神秘に惹かれ、ファッションから自然科学、環境問題など幅広い分野で活動。モデル業の傍ら自然豊かな辺境の地を巡り、旅先での啓発や植物の知識を活かしてプロデュース等も行う。2021年6月出版で地球を紐解くアートサイエンス本を制作中。
instagram:@noma77777
INFORMATION
植物素材のアセテート素材。リラックス感のあるバンドカラーシャツ ¥8,900
日常を豊かにする服。2021 SS Styling 「深呼吸が似合う。そんな一日。」
Photo : 田尾沙織 (Top)
Text : 長祖久美子