PEOPLE
2021.04.30 FRI.
MY SUSTAINABLE LIFE
#03
アーティスト・Hana4 “0.1mm”
自身の原点であるネイルアートに軸足を置きながらも、テキスタイル作品の制作からアートディレクションまで幅広い仕事を手掛けているHana4(はなよ)さん。ここ数年は、「サステナブル」「アップサイクル」、さらに「伝統」を意識した活動にも積極的にですが、ご本人は、ごく自然な流れで地球環境や人体へのやさしさを意識するようになったそう。果たしてその背景にはどんな出来事があったのでしょうか。
心にも力をくれるネイル。地球にも身体にもやさしいものを使いたい
――今やネイルアートの枠を超えて幅広いお仕事を手掛けているHana4さん。最近はどんな活動に力を入れていらっしゃいますか?
近年、国内外でネイルアートの講師として活動していたのですが、ここ最近はアートディレクションのお仕事やテキスタイルなど、企業とのコラボレーションに力を入れています。ネイルアートという軸はぶらさないことを意識しながらも、キャンバスを移行させつつある背景には、2つの想いがあります。
ひとつは、ネイルアートに感じる「切なさ」。ネイルは写真や映像でしか残すことができないはかないアートで、ときには自分で描いた作品を自分で消さなければなりません。生むたびに消すのではなく、時代に寄り添いながら“残すアート”にシフトしたいという気持ちが年々強くなっています。
そしてもうひとつは、ネイル商材の成分への不安感。これだけ地球環境保全への関心が高まったり、食品の添加物も気にする人が多くなったりしているのに、マニキュアやジェルの成分は調べてもなかなか出てこない。製造元のほうでも詳細を明かしていないので、独自に勉強したところ、どの成分も自然由来のものではなく、人体への影響がまったくないとは言い切れないと思ったんです。
――なるほど。
実際私自身、過去に原因不明の視覚過敏や聴覚過敏に悩まされた時期があったし、お子さまやわんちゃんを連れていらっしゃる方や妊婦の方がお客さまだと、特に心配。しかし一方で、アルツハイマーのおばあさまがリップやマニキュアを施したことで記憶が蘇った事例があるなど、ネイルが、人の心を華やがせてくれるものであることに違いはない。相手の手に触れて体温を感じてもらえることがセラピーにもなるとも思うから、そういうときに安心して使える商材の開発も視野に入れています。
――人間が安心して使えるということは、地球にもやさしい仕様になりそうですね。
できる限り循環可能な、地球にも身体にもやさしいネイル商材があったらいいなというのはずっと考えていることのひとつです。マニキュアやジェルって、1本全部使いきれることって少ないし、余らせてしまって捨てるときには、不燃ゴミでいいのかよくわからないという人も多いはず。地球のことを考えるなら、まずはゴミの捨て方をきちんと知ってもらうことが大切なんだけど、ネイル商材に関してはそこからして不透明ですよね。
そうした状況を変えるためにも、今はいろんな人と会ってアイデアを伝えることで、実現に向けてのヒントを集めているところです。投資家の方とお話させていただくこともありますが、自分の周りにいるクリエイターとは頭の使い方が全然違うから刺激になります。普段接点がない人と会うってすごく大事だなと再確認できました。ぽろっと出てくるアイデアが、自分には灯台下暗しで、近すぎるがゆえに見えてなかったことだったりするんですよ。
「0.1mm」にこだわる伝統工芸の世界を、たくさんの人に知ってほしい
――「江戸小紋」のネイルアートを制作するなど、伝統工芸に携わる方々とのコラボレーションにも力を入れていらっしゃるHana4さん。ご自分の道を究めていらっしゃる方からお話を伺うことも大きな刺激になっていますか?
その道を何十年も深く究めていらっしゃる方の言葉はすごく貴重だし、自分の仕事を続けるためのパワーをいただけている実感があります。私は父をガンで亡くしているのですが、父が亡くなったときに「これからは俺が父親代わりになってやるから、悩み事があれば何でも話せよ!」と言ってくれたのが(十代目)坂東三津五郎さんでした。
ところがその三津五郎さんも、3年後に父と同じ病気で亡くなってしまった。歌舞伎そのものはその後も代々受け継がれていくとはいえ、三津五郎さんが演じる舞台はもう絶対生で見ることがかなわない。同じ演目であっても、他の人が演じることで、ネイルでいう「0.1mm」のような差異が生まれると思ったんです。
――0.1mm。ほんの少しに感じるけど、そこに「大きな差」があるという。
はい。0.1mmだなんて、その世界に精通していない人からしたら本当に些細なことかもしれないけど、その0.1mmで悔しい思いをすることもあるし、もっと頑張ろうとも思える。そのストイックさゆえに究められた伝統の世界をもっとたくさんの人に知ってもらうために、私にできることは何だろう? ということも日々考えています。その一環として、匠たちとコラボさせていただき、作品発表時にはSNSでハッシュタグをつけて発信してきました。
ありがたいことに、『情熱大陸』に出演させていただいたことをきっかけにフォロワー数が増えたのですが、その影響力を“正しく使う”ことはとても大切だと思っています。例えば、「#江戸小紋」って入れると、日本の伝統工芸に興味がある外国の方々が関心を示してくれることも。そうした積み重ね、新しいものと伝統的なものをうまく融合していくことで、これまで知らなかった世界に目を向けてくれる人が増えるなど、伝統が持続・維持されていく、つまり、伝統のサステナブルに、どこかで貢献できていると信じています。
言葉に引っ張られすぎず、本当にいいと思ったものを選びたい
――「アップサイクル」という言葉を掲げた活動にも積極的でいらっしゃいますね。
オファーいただくことも増えていますが、「アップサイクル」と「リサイクル」を混同している方も少なくないなと感じます。アップサイクルって「今の状態より価値が高いものにすること」なので、「破棄する予定のものに絵を描いてアートにしよう」だと趣旨が変わってくる。本来の意味からそれないためには「循環」を意識することが大事なので、使わなくなったものをキャンバスとしてアップサイクルに生かす場合も、いかに価値を上げられるかを第一に考えています。
また、アップサイクルだけでなくサステナブルに関しても言えることですが、従来、アートの根源には「自己主張」があったけど、そこに「持続可能」の要素が入ったことによって、「誰かのため」という側面が浮き彫りになったと思います。
例えば、「販売価格の数パーセントが寄付されます」というのもそうだし、オーガニックをうたっている商品なら「地球のために」を強調している場合もあります。だけど書かれている情報は必ずしもすべて正しいとは限らないし、自然由来の成分を配合しているからといって100%オーガニックではないことだってある。言葉に引っ張られすぎず、一人ひとりが知識力を高めることも、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。知識を得る努力を惜しまず、自分が本当にいいと思ったものを選ぶことを大事にしないと、自分の人生そのものも薄っぺらいものになってしまうから。
――Hana4さんご自身は、生活にどんなものを取り入れていらっしゃいますか?
食材はできるだけ無農薬のものを選ぶようにしています。商材の成分について考えるようになったころから、食生活を整えることの大切さにも目を向けるようになったんです。とはいえ、「絶対にオーガニックのものだけしか食べない!」となると買い物も大変になるので、無理なくできる範囲でよしとしています。無農薬の野菜なら皮まで食べられてゴミも出にくいし、腸や肌の状態も整ってきます。
同様に、洋服もなるべくゴミになることがないよう、長く着られるものを選ぶようになりました。若いころは安い物しか買えない分、量を買っていたけど、そうすると全然循環しなくなるんですよ。クローゼットに眠っている洋服がたくさんあると、気も滞っていく気がします。どの服も主役でいさせてあげられるよう、「長く愛用できる」という視点を大切にしたいですね。
Profile:
Hana4(@hana4 /@hana4art)
https://www.hana4art.com/
https://hana4art.stores.jp/
原点であるネイルアートを軸に、アート、テキスタイル、イラストレーションなどの制作活動から、アートディレクションまで、国内外問わず幅広く活動するアーティスト。現在は、サステナブル、オーガニックなライフスタイルから生まれたアップサイクルなアート活動を行うなど、ビューティーやファッションの枠を超えた、さまざまな分野で注目を集めている。
INFORMATION
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Photo:田尾沙織(TOP)
Text:松本玲子