GOODS
2021.04.26 MON.
OLD THINGS, NEW THINGS
#01
愛おしいヒビとカケ
眺めるだけでも幸せな気持ちになる料理と、それに合わせた器の美しさに注目が集まっている料理家の中川たまさん。彼女の著書やSNSに登場するアンティークの器には、不思議と心を落ち着かせてくれる力があります。今回、中川さんに愛用の器にまつわるストーリーを伺いながら、古いものと新しいものとの取り入れ方や、好きなものを大切に使うライフスタイルの魅力にせまります。
和洋折衷で、ぐっとくる組み合わせが見つかる
和洋問わずさまざまなお皿が並ぶ、中川さんのご自宅兼スタジオ。なかでも目をひくのが、白を貴重としたアンティークの器です。日々の暮らしに取り入れて楽しむようになったきっかけは、家庭にありました。
「料理や器に興味を持ちだしたのは高校生から20歳くらいです。学生時代の将来の夢はスタイリストだったので、卒業後はアパレルに進んだのですが、料理もずっと好きで、次第に器にも興味を持つようになりました。とはいえ、高校を卒業して一人暮らしを始めてからは料理をしてない時期もあったんですけど、結婚して子どもが生まれると、毎日家族のためにご飯を作るようになって。そうなると、家族の分の食器をそろえたくなるし、なにより自分の好きな器に盛りつけたくて、器選びを楽しむようになりました。」
ジャンルにこだわらず、気に入ったものを揃えているという中川さん。
「ブランドは関係なく、いいなと思ったら手に取ってみることが多いかな。日本のものだと作家さんの作品に惹かれることが多くて、洋食器だとアンティークが好きです。色味的に一番多く取りそろえているのは、料理がキレイに見えて使いやすい白。ひとくちに白といってもいろんな白があって、色も形も一つひとつ異なっていて。キナリっぽい一枚もあれば、経年によってできた傷が、いい味になっている一枚もある。アンティークの場合、それが際立ちます。日本の白とヨーロッパの白もニュアンスが全然違うのが面白いですね。」
盛り付けも、ルールにとらわれないのが中川さん流。異なる国のお皿と料理をあわせることも、よくあるそうです。
「国や地域ごとにいろんな家庭料理があるように、器にも個性があって、どんな料理がしっくりくるかも違う。それがおもしろいなと思います。たとえば、アンティークの洋食器に春巻きや麻婆豆腐など中華料理を載せてみたら相性ぴったり! ということもあります。料理のカテゴリーにとらわれずにいろんな組み合わせを楽しんでいたら、ぐっとくるものが見つかる瞬間があって、その時はすごくワクワクした気持ちになりますね。」
欠けたりヒビが入ったりするからこそ愛着になる
器は扱いが難しいというイメージのあるアンティークの器ですが、うまく付き合うコツは、どんどん使うこと、だそう。
「アンティークは扱いが大変って言われがちですが、全然そんなことはありません! うちでも気にせず食洗器にも入れるし、どんどん普通に使っています。貫入(陶器の釉薬の隙間にできる細かいヒビ)部分などから食材や油の色が染みこんでも、それはそれで味が出ていいかなと思うので、怖がらずに使ってあげるようにしています。欠けたりヒビが入ったりしたら自分で金継ぎに出すこともあるけど、接着剤でくっつけて他の用途に使うのもオススメです。たとえばテーブルに置いて果物を載せたり、洗面所でポプリ入れにしたり。年季の入った器って、ディスプレイとしてもとっても魅力的ですし、あまり気負わずに自由な発想で使ってあげるのがいいんじゃないかな。」
実際に触れたり持った時の感触を大事にしているという中川さんですが、最近は意外な買い物のしかたもするそうです。
「私の持つアンティークの器は、骨董市やアンティークショップでコツコツと長い時間をかけて集めたもの。これまでは直接手に持ってみてから買うことが多かったのすが、最近はヤフーオークションやメルカリも結構利用しているんです。実際に手に取ったことがないものをネットショッピングで試すことはあまりないですが、好きな作家さんの作品や昔ほしかったものが出品されていると、思わずじーっと見ちゃったり。特に2020年は外出自粛でなかなか出歩けなかったので、ネットサーフィンを楽しむ時間が多かったかもしれません。ネットも上手に使い分ければ、気に入ったものと出会える可能性が広がるなって思いました。」
不揃いなことが、選ぶ楽しみに変わっていく
おもてなしの機会も多い中川さん。あえてコーディネートを作り切らないのも、もてなされる側が楽しむための工夫です。
「大皿と小皿があれば、どんな料理も華やかに見えるので重宝しますよ(笑)。大皿に料理を盛って取り分けてもらうのですが、小皿も一枚一枚デザインはまちまちでそろっていないので、各自好きなものを選んでもらっています。湯呑やグラスも、お酒が進んでいくうちにどれが自分のだかわからなくなったりするけど、自分で選んだものだとそういうことがなくていいですよね。それに、小皿もグラスも自分たちで選んでもらうから、スタイリングで遊んでくれているみたい。そういう機会を通して、招いた人がアンティークの器の魅力に気がついてくれたりするのって、素敵だなって思います。」
食事以外の時にも使えば、日常使いのハードルもぐんと下がります。
「器って、お気に入りだからと飾ったり、仕舞い込んでしまいがちだと思うんですが、大好きなものだからこそ、毎日使ってあげることをオススメしたいです。例えば大皿って、来客時しか使わないというご家庭は多いと思いますが、せっかくのステキな器なんだから、お正月とかの人が集まるタイミングのときしか使わないのはもったいない! トレー代わりにしたりお茶セットを載せたりして、日常的に活躍させてあげてください。食器棚の奥にしまいこむと使わなくなるので、日常の導線で目に入るところに置いておくといいですよ。目線を変えるだけでもぐっと登場の機会が増えて、普段使いしたくなるものです。」
中川さんが集めるお皿は、時代もジャンルもさまざま。でも、不思議と統一感があります。そこからは、本当に好きなものを厳選して大切に付き合っている中川さんのライフスタイルがうかがえました。
「大皿に限らず、いつも目につくところは、愛しいもの、スキなものでいっぱいにしておけば、家での時間を心地よく過ごせる気がします。わたしは仕事柄、自宅で過ごす時間が長いこともあって、自分が気持ちよく過ごすための空間を作ることは大事にしているんです。でも、それってきっとみんなそうですよね。自分なりに心地よく過ごせる空間にできたら、それが一番だと思います。」
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Profile:
中川たま
料理家。季節の食材を使ったシンプルな料理、洗練されたスタイリングが好評。近著に『器は自由におおらかに おいしく見える器の選び方・使い方』(家の光協会)『ふわふわカステラの本』(主婦と生活者)などがある。
INFORMATION
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Photo : 伊藤圭
Text : 松本玲子