GOODS
2021.05.11.TUE
OLD THINGS, NEW THINGS
#02
裂き、ほぐし、織る
着物などの古布を裂いて織り、新しい布として生まれ変わらせる日本古来の伝統工芸・裂織。“さきおりCHICKA” 三好千佳さんは、青森県に伝統的に伝わる「南部裂織」の技法を用いて、カラフルでモダンなカラーリングの小物やバッグを製作しています。
青森を拠点に活動しながら、全国で展示を行い裂織の魅力を伝える三好さんに、作家になったきっかけや手仕事としての魅力、そして自分らしいアップサイクルへの思いについて伺いました。
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綿が貴重品だった時代がルーツ。青森の暮らしに根ざした伝統の織り
青森の南部裂織といえば、落ち着いた色味のイメージ。なんとなく若い世代には馴染まないものという印象ですが、三好さんの作品はどれも華やかさと温かみのある色彩。伝統工芸という枠を越え、純粋にテキスタイルとしての美しさに国内外で注目を集めています。そんな三好さんに裂織を始めたきっかけを伺いました。
「興味を持つきっかけになったのは、夫の転勤で二年間、十和田市に住むようになったことです。十和田市は、青森県のなかでも裂織が非常に盛んで、県内で一番大きな教室があるんです。始めての土地だったので、教室に通えば知り合いも増えるだろうし、これは学ぶチャンスだぞと始めました。
私は生まれも育ちも青森で、伝統工芸品が身近にある環境も大きかったように思います。こぎん刺しを小学校の家庭科で習ったり、街中であけびのカゴを持っている人を見かけたり。また、前職が旅行会社の添乗員だったのもあり、日本中のいろんなところに行き、沖縄の紅型染め、北海道のアイヌ刺繍やユーカラ織などいろいろな伝統工芸品を見るなかで、手仕事に惹かれていきました。」
実際にはじめてみると、生活に根ざした裂織の文化の奥深さ感じたといいます。
「私自身はもともと手芸をしたこともなかったし、手先が器用でもないんです。そんな私でも作ることができるのがこの工芸の懐の広さ。元々は綿が貴重品だった時代に生活の中で生まれた技術なので、やってみると意外と難しくないんです。それに、同じ素材を使ったとしても、着物のどこの部分を使うかによって模様の出方が全然違うので、同じものは二度と作れない。色々な糸の組み合わせがその時の気分で偶然に組み合わさって完成するので、本当にすべてが一点ものというところも魅力だと思います。」
その服が持つ思い出を考えながら、ほぐし、織っていく
布を裂いて、織っていくという裂織。その制作工程には、様々な歴史をもつ布との出会いと、布を再生させる技術や膨大な時間が込められていました。
「布の仕入れ方は、大きく分けて二つです。一つは古布を扱っている骨董品屋や古道具屋からの仕入れます。着物だけじゃなくて、ヨーロッパのアンティークファブリックやデニムなども変化がつくので、使うことがありますね。あとはタオルの切れ端や、化繊の古着も。裂ける布でさえあれば糸にできるので、裂織の材料にできるんです。
もう一つは、おばあちゃんの形見の着物など、捨てるには忍びない着物が私のところにやってくる場合です。着物をほぐして編める状態にするのがとても大変で、膨大な時間と作業がかかります。着物を洗ってアイロンをかけ、ほどいて1センチ程度にひたすら裂いていく作業。古い着物は手縫いでしっかり縫われているので、ほどくのも大変!この作業だけで何日間もかかります。」
この、ほぐす作業が裂織の醍醐味の一つ。
「織る作業は、割合にすると全体の1割か2割でしょうか。ランチョンマットなら30分くらいで織れてしまうので、ほとんどが下準備に費やされています。そう聞くと面倒だと思うかもしれません。でも、それぞれが思い入れのある古着や着物の場合も多いので、その布が持つ歴史を考えながらほぐしていく時間も、大切にしたいと思っているんです。」
人や素材との出会いを楽しみながら裂織の魅力を広めたい
これまで国内外で精力的に展示会をされている三好さん。デザイン性や伝統工芸としての技術を大切しているそう。
「ネックストラップは、他でやっている人があまりいないこともあり、オリジナリティがあると思います。細く織るためには集中力も技術も必要で、すごく難しいんです。それに、カラフルな作風は、南部裂織の本来の伝統とは異なる私オリジナルのもの。伝統工芸としてその技術や文化をそのまま継承していくのか、自分らしさを追求していくのか……。随分と迷ったのですが、自分のイメージするものを作りたくなって、独立しました。」
伝統的なデザインや色使いにとらわれない三好さんの作品は、伝統工芸にあまり馴染みのないような世代にも人気です。
「展示会では、みなさん最初は青森の裂織とは認識せず、可愛いテキスタイルだなと思って手にとってくれることが多いですね。よく見ると、『あ、南部裂織なんだ!』って(笑)。購入してくれるのは、小さな子供から70〜80代まで、幅広い年代の女性が多いです。特に都会に住む30〜40代の女性が気に入ってくれることが多くて、それはすごく意外でしたし、嬉しく感じています。
あとは、パリで日本のクラフトとして招待され展示した時も、長蛇の列ができるくらい好評でした。ヨーロッパは日本以上に古いものを大切にする文化が根付いているので、古着物が素材となる裂織は、とても好意的に受け入れてもらえたのが印象的です。」
裂織を手掛けるようになって、衣服との付き合い方も変わったといいます。
「役割を終えた着物が、自分が織り直すことでまったく違う使い方になり、以前の持ち主とは別の人に使ってもらえるところがこの工芸の素敵なところ。裂織を始めてからは、『もったいない』という気持ちがより強くなり、どんな布でも織りこめるかなという観点で見てしまいます。私が今着ている服も、捨てる時にはとりあえず裂いてみようと思っているんです(笑)。
今は作品作りが中心でほぼ青森のアトリエにいますが、世の中がまた落ち着いたら、ワークショップで色々な地方に行ってみたいなと思っています。織物ってどうしてもハードルが高いと思われがちなんですが、参加した方からは、意外と簡単だったという声が多いです。できれば若い人や子どもに体験してもらいたいですね。裂織を知るきっかけになってくれるのも嬉しいし、アップサイクルの大切さや、自分の服を大事に着ようと、意識が変わってくれる気がするので。
色々な人や素材との出会いを楽しみながら、現代の暮らしにフィットした作品を、私らしく作っていければいいかなって思います。」
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Profile: 三好千佳
青森県出身。南部裂織保存会にて技術を学び、自身のブランドである“さきおりCHICKA”主宰。Discover Japan Paris「青森展」や日本橋高島屋「旅する東北展」など各地の展覧会に出品。青森のアトリエではワークショップも不定期にて開催。裂織文化の発信を行っている。
INFORMATION
どんなときも、いつでも好きな自分でいられるように。(STYLING / アーティストHANA4)
長い間大切にしているモノたち。(STYLING / フォトグラファー/ジュエリーデザイナー IPPEI&JANINE NAOI)
Photo: 山崎悠次
Text: 長祖久美子